「溶接・接合技術は、普段は人々の目に触れる機会こそ多くないが、社会インフラや製造業を支える重要な基盤技術だ。鉄鋼材料は加工・組み立てを経て建築物や橋梁、船舶、自動車、鉄道、エネルギー設備など社会を支えるさまざまな構造物へと姿を変える。溶接は、溶接を設計・施工の中でどれだけ自由に活用できるのか、また溶接部の性能をいかに確保できるのかによって構造物の生産効率、安全性、さらには機能・性能そのものを大きく左右するキーテクノロジー。素材、溶接材料、溶接施工法に至るまで一貫での技術の積み重ねが、溶接構造物を製造する各産業が世界をリードするための重要な競争力の源泉の一つ。工業会は、溶接材料業界のこうした積み重ねの前進努力を維持・発展させ、業界各社が将来に目を向けて事業活動を展開できるよう環境づくりに努めることが重要な使命であると認識している」
――この10年の市場の動きは。
「溶接材料の国内需要量は新型コロナウイルス感染症拡大を境に減少し、現在もコロナ禍前と比較して約20%低い水準で推移している。働き方改革の進展や人手不足の深刻化などの影響で、需要の回復は限定的だ」
――2026年度の市場をどうみる。
「市場全体を大きく押し上げる要因は見当たらないが、一部大型建設案件の進展、好調な造船分野など明るい材料も見受けられ、需要は徐々に持ち直すことを期待している」
――業界が抱える課題とは。
「世界的にカーボンニュートラルに向けた2050年までのロードマップに基づいた活動が推進されるている。溶接業界でも各産業界で加速するカーボンニュートラル化への貢献や製造業をはじめとする省人・省力化への対応、環境対応、構造物の軽量化や信頼性向上、長期寿命化への貢献など、次世代に向けた新たな課題解決への提案につながるより高度な価値がますます求められる。こうした変化に迅速かつタイムリーに応えることが重要だ。また、人材不足や技能伝承、安定供給体制の維持は、現在の溶接材料業界における共通の重要課題となっている」
――課題に対するこれまでの取り組みや、成果とは。
「当工業会では、生産・出荷・輸出入動向などに関する統計データの整備を継続的に行い、会員各社や関係機関への情報提供に努めてきた。技術動向の調査においては、IIWやISOの国際会議への参加を通じて、溶接材料に関する国際規格改正への対応を進め、若手を中心とした海外調査団の派遣や技術動向勉強会、SDSや化学物質規制に関する情報提供を実施。人材確保に向けた取り組みとして、経済産業省を通じて政府へ働きかけを行った結果、26年5月に溶接材料製造業が『特定技能制度』および『育成就労制度』の対象業種に指定された。『特定技能制度』は26年6月1日から、『育成就労制度』については27年4月から適用が開始される予定で、会員各社における人材確保と事業基盤強化に大きく寄与すると期待している」
――5―10年先の市場をどう予測する。
「国内需要の今後大幅な拡大が見込めない一方で、国の戦略分野官民投資政策に限らず、今後の各産業における投資は価値の差別化や競争力を向上させる取り組みにならざるを得ないことから、高機能・高能率・高信頼性を実現する溶接材料および溶接技術への需要は高まるだろう。過去の『溶接材料を供給する業界』という色合いから、ますます設計施工の自由度拡大・自動化・デジタル化・カーボンニュートラルを支える『ソリューション産業』としての総合的な提案力が重要になるはずだ。業界ではAI、IoT、ロボット技術、VRを活用した教育・訓練などの普及が進む一方で、環境対応やソリューション解析、新素材、AM(積層造形)への適応も求められている。今後も安全・品質・信頼などの基本を堅持しながら、人材育成、技術開発、情報共有のあり方を進化させていきたいと考えている」
――業界に入ってくる方々にメッセージを。
「溶接・接合技術は、鉄などを使う各産業のものづくりの根幹であり競争力を支える重要で非常に奥が深い。近年はロボットやAI、IoT、環境技術などとも密接に結び付きながら進化を続けている。社会を支える構造物や製品の多くは、溶接なくして成り立たないだろう。社会を支えるという誇りを持ち、新しい取り組みで多くの重要な基幹産業のものづくりを変えられる仕事がここにある。『つなぐ技術』で新しい時代のものづくりにぜひ挑戦していただきたい」(大島 まい)















