「鉄鋼を核とした強固な事業基盤をさらに磨きながら、産機・インフラ、食糧、繊維を含む4つの事業領域で社会課題の解決に資するビジネスを拡大していく。鉄鋼事業で培った現場力、信用力、ネットワーク、リスクマネジメント力は他の事業領域でも発揮できる当社の強み。各事業が自立的に収益を高めると同時にグループ全体で機能を相互に補完し合いながら、より強靭な企業体を構築していく。お客様、取引先、日本製鉄グループ、そして社会から信頼され、『日鉄物産に任せれば安心』『日鉄物産と組めば新しい価値が生まれる』と評価いただいて、選ばれ続ける会社を目指す。そのためにも社員一人ひとりが挑戦を続け、誇りをもって働ける強靭で成長力のある企業づくりを進めていく」
――中長期の経営環境認識を。
「世界各地で地政学リスクが高まり、関税障壁が増え、インフレや金利・為替の変動など不確実性の高い社会・経済情勢が続いている。鉄鋼市場においては中国の過剰生産や安価な鋼材輸出が国際需給や市況に大きな影響を与えている。国内においても人口減少、人手不足、物流・エネルギーコストの上昇など構造的な問題が顕在化し、鋼材需要は中長期的には大きな拡大を見込みにくい。ただ悲観的な要素ばかりではなく、自動車、造船、エネルギー、インフラ、再生可能エネルギー、データセンター、半導体・電機関連など分野によっては底堅い需要や新たな成長機会も見込める。海外においても米国、インド、欧州、ASEANなど鉄鋼需要の拡大を期待できる地域がある。加えてカーボンニュートラル、グリーントランスフォーメーション、サプライチェーンの強靭化、省人・省力化といった社会課題に対処する新たな商社機能を発揮できる領域もある。こうした経営環境の大きな変化を先取りし、加工・物流・在庫、与信、情報、海外ネットワークなどの商社機能を強化し、取引先にとって不可欠な存在として選ばれることが重要だと認識している」
――中長期経営計画(2026―30年度)をスタートした。
「前中長計の5年間は、米国の関税政策、中国の鋼材輸出による国際市況下落、国内鉄鋼需要の停滞など厳しい環境が続いたが、4年連続で過去最高益を更新し、一過性要因を除いた実力損益で500億円を超える収益構造を築いた。4つの事業領域、国内外拠点、関係会社が競争力を高めてきた成果であり、大きな財産であると受け止めている。新中長計では、この収益基盤のさらなる強化と経営改革の取り組みをしっかり引き継ぎながら、それぞれを次の成長ステージへと高め、既存事業の競争力強化と新たな成長領域への挑戦を両輪として推し進め、30年度に向けて経常利益を580億円に引き上げていく」
――26年度の利益計画は。「前中長計最終年度の25年度は原料炭事業の不調、産機・インフラ事業の株式評価損など一過性影響があって経常利益は490億円にとどまった。内訳は鉄鋼375億円、産機・インフラ55億円、食糧42億円、繊維17億円だった。本年度は経常利益517億円を計画している」
――財務基盤も強化する。
「前中長計期間に自己資本を4245億円まで積み上げ、自己資本比率が37・2%に上昇し、ネットDEレシオは0・63倍まで低下した。新中長計においても成長投資と財務健全性のバランスを重視し、投資案件については戦略適合性、収益性、リスク、撤退基準などを十分に見極めた上で判断する」
――成長戦略を。
「国内事業の強化、海外事業の拡大、社会ニーズに応える事業の創出・拡大を成長戦略の柱に据えている。国内では商社としての基盤機能をさらに強化し、取引先の調達、生産、物流などの課題に対する付加価値の高い解決策を提案していく。海外では、北米、欧州、インド、ASEANなど需要成長が見込まれる地域を中心に販売、加工、物流、事業投資を含めた取り組みを進めていく」
――利益拡大には効率化も不可欠。
「業務刷新と効率化が大きなテーマとなる。日本製鉄との連携によるDX、基幹システムの刷新、生成AIの活用、業務プロセスの標準化と見直しを通じて、間接業務を含め生産性を高めていく。単なるコスト削減を目的とするものではなく、無駄をそぎ落として生み出した経営資源を成長戦略と社員への還元に振り向けていく。人財、システム、海外拠点、事業投資といった持続的成長に不可欠な分野に経営資源をしっかり投入していく」
――人財の育成が成長のカギを握る。
「商社における価値創造の源泉が人財。海外事業や事業投資を担える人財、現場の課題を深く理解して解決策を提案できる人財の育成を進めている。若手・中堅社員には、早い段階から責任ある役割と挑戦の機会を与え、多様な経験を通じた成長を促していく。社員一人ひとりが持てる力を最大限に発揮できるよう採用、育成、配置、登用を経営戦略と一体で考え、成長戦略を実行できる組織づくりを進めていく」
――ESG経営も重要。
「安全、品質、コンプライアンスは、すべての事業活動と成長戦略の大前提となる。いかに優れた戦略や高い収益目標を掲げても、社会や取引先からの信頼を失えば、企業としての存続が危うくなる。脱炭素、環境保全、人権への配慮などの課題にも誠実に対応し、これらを制約と受け止めるのではなく、新たな価値創造と競争力の向上につなげていく」
――4つの事業領域について、主力の鉄鋼事業の取り組みを。
「日本製鉄グループにおける営業、調達をつなぐハブ機能を果たし、販売、加工、物流、情報といった機能を組み合わせながら、最適な価値を提供できる機能を担っていく。国内では流通・加工分野の構造対策や効率化を進め、グループ会社間の連携をさらに深めることで、より安定的で付加価値の高いサービスを提供。海外では日本製鉄の重点地域である米州、インド、ASEAN、欧州を中心に連携を強化し、商社機能を発揮。電磁鋼板をはじめとした高付加価値品や冷鉄源、カーボンニュートラル関連商材などの重点分野で協働を深め、素材、加工、物流、サービスを含む最適な提案につなげていく。コイルセンターを含む流通・加工機能の効率化や高度化を通じて、サプライチェーン全体の持続性を高め、健全な流通市場の構築にも貢献。グループ全体で提供できる価値を最大化しながら、お客様や社会にしっかり貢献していく」
――海外事業投資など成長余力がある。
「米州、インドは現地事業を強化しなければならない。欧州を含め、日本製鉄グループの海外戦略と歩調を合わせて、電磁鋼板など戦略商品の加工・物流態勢の強化に向け、成長投資を積極展開したい」
――冷鉄源の安定調達も求められる。「日本製鉄の電炉化の進展を見据え、鉄スクラップを含む冷鉄源の安定供給態勢の構築を進めている」
――1億トンの鉄鋼メーカーの商社機能として、グローバルでの取扱量拡大を目指す。
「国内は価格・利益優先で、海外も関税障壁など高いハードルがあるが、中期的にはメーカー商社としての機能を磨き、取扱量も追求していく」
――産機・インフラ事業については。
「素材、自動車部品、産業機械、鉄道関連機器、工業団地、電力供給など幅広い事業を展開しており、ものづくりと社会インフラを支えるとともに脱炭素、軽量化、省人化、省エネ、リサイクルといった社会課題に関わる事業を多く手掛けている。日本製鉄グループとのシナジー効果も引き出しながら、カーボンニュートラルやエコソリューションを軸とした事業拡大の機会を取り込み、持続的成長を目指していく」
――具体的な取り組みは。
「機能マテリアル分野では、蓄電池、アルミ・銅などのリサイクル、炭素繊維、太陽光関連部材など循環型社会に関わる商材を強化する。モビリティ・産機分野は、電動化、軽量化、省人化、自動化、設備更新などの需要を取り込んでいく。インフラ分野は工業団地事業における土地販売に加え、電力・水などのインフラ供給、環境対策などの進出企業支援やサービスを強化し、継続性の高いビジネスモデルへ進化させていく。トレーディングに加えて、事業投資を組み合わせた成長戦略も強化する。とくに北米、インド、ASEANを重点地域と位置付けており、新規事業投資や現地企業との協業を積極的に進めながら、地域密着型ビジネスを育成し、収益基盤を強化していく」
――食糧事業の取り組みを。
「ビーフ、ポーク、チキンなど畜産物、水産物を主に海外から調達し、国内の外食チェーン、量販店、ハム・ソーセージメーカー、大手問屋などに供給している。気候変動、動物疾病、地政学リスク、新興国需要の拡大、為替影響などから調達面で厳しさが増しているが、裏返すと情報力やリスク対応力など商社への期待が高まっている。サプライチェーンを自ら設計し、サプライヤーと需要家をつなぐプラットフォームとしての機能を高めながら海外地場取引も拡大し、持続的成長につなげていく」
――需給、相場に左右されやすい収益構造にある。
「単なる原料供給から、一次加工、品質管理、物流、安定調達を組み合わせた高付加価値モデルへの転換を図っており、確実に成長して選ばれる商社としての存在感を高めていく」
――三井物産との合弁会社、MNインターファッションが事業主体となる繊維セグメントは。
「アパレルOEMは、国内衣料消費の停滞、顧客サイドの在庫抑制、小ロット・短納期化によって受注効率が低下している。加えて円安による海外生産コストの上昇、原材料、物流費、人件費などの高止まりに関する価格転嫁も容易ではない。中国生産のコスト優位性が薄れ、ASEANなどへの生産の分散を進めているが、品質管理や納期リスクなどの課題を抱えている。付加価値を追求しやすいユニフォーム、ワークウェア、スポーツ・アウトドア、医療・介護、産業資材向けの機能性繊維をターゲットとし、企画・素材提案力を高めながら、品質・納期を管理できる新たなサプライチェーンを構築していく」
――日鉄物産グループをどのようなグループにしたいか。
「日本製鉄は世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーへの復権を目指している。当社は、日本製鉄とグループ会社がそれぞれの戦略を実行していく上での最適なパートナーとして発展・成長していく立場にある。その成長を実現するために必要なのが、お客様や社会から『選ばれる力』だ。日鉄物産とビジネスをしたいと思わせるよう、商社機能をさらに磨いていく。また、中長期経営計画の先の将来に経常利益1000億円を目指す土台はできつつある。目標を高く掲げ、現状を冷静に分析し、ギャップを埋めていくことが仕事の基本。社員一人ひとりが成長を続け、働き甲斐、それによる幸せを実感できる会社づくりを目指している。その延長線上に会社の発展があり、会社の成長が社員や家族の幸せにつながっていく『成長と還元の好循環』を回しながら、持続的に成長する強い組織を作り、社員の幸せと会社の幸せがつながるような会社にしていきたい」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽園田裕人(そのだ・ひろと)氏=90年神戸大法卒、新日本製鉄(現・日本製鉄)入社。本社鋼管営業部、室蘭製鉄所(当時)、名古屋支店(同)などで管理、営業などを幅広く経験。21年執行役員棒線事業部長、23年執行役員厚板・建材事業部長兼棒線事業部長、24年常務執行役員厚板・建材事業部長兼棒線事業部長。座右の銘は「泰然自若」。週末は散策し、映画・ドラマ鑑賞で心身をリフレッシュ。67年4月5日生まれ、滋賀県出身。















