2025年12月3日

JFEスチールセクター長に聞く/厚板/常務執行役員/新井 和彦氏/造船業再興 需要増に期待

――厚板需給など市場動向について。

「2024年度は建材分野では大型物件はあるものの、人手不足や資材高騰から中小案件を中心にズレ込んだ。造船も一過性の認証問題や設計の遅れなどの影響もあり、下振れした」

「厚板の需要分野は造船、建・産機、インフラなど使用用途が多岐に渡るが、ここ数年で顕在化した人手不足、資機材高騰の制約もあり、なかなか需要が大きく伸長する状況にない。ただ悲観的になるだけではなく、設備投資も少しずつ進んでおり、省力化や効率改善により仕事量回復を期待したい」

――造船は。

「造船分野は造船メーカー各社が4年近い手持ち工事量を確保している。24年度の国内造船用厚板需要は一過性の認証問題や設計の遅れなども響き、260万トン強だった。こうした中で、造船各社はネックの艤装工程をはじめクレーンなど設備投資による能力アップを進めており、建造ピッチも上がってくる事を期待している」

――第8次中期経営計画(25~27年度)がスタートしました。厚板セクターの取り組みについて、まず7次中計の総括から。

「東日本製鉄所京浜地区の高炉を休止する構造改革を受け、西日本製鉄所倉敷地区からスラブを供給し、全社で効率的かつ安定的な生産・販売基盤を構築した。京浜、倉敷、福山の3地区、3ミルによる競争力のある生産基盤を確立できた。収益面では中国の内需不振・過剰供給による市況低迷継続や、一過性を含む環境変化、販売数量減により、期待していた水準に届かなかった」

――第8次中計の取り組みは。

「現行中計は10年後の絵姿を想定し、バックキャストして立案した。カーボンニュートラル(CN)の潮流は不透明感もあり、世界全体の動きは鈍くなるかもしれないが、止まることはない。従来からの主要需要分野に注力するとともに、新分野への展開を強化する。これまでの設備投資による3ミルの強みを生かして、8次中計以降は具体的な需要捕捉へ向けて取り組みを加速する」

――新分野を拡大することに。

「国内中心に主要分野とともに、環境対応、社会インフラ変革に伴うビジネスチャンスを捉える。一つの大きな柱である洋上風力に加え、新エネ対応を強化する。需要を創出する観点から、顧客や外部機関との研究開発など外部と連携し、規格化、基準化、材料のスペックインなどと合わせて進めたい。国によってルールも異なり、しっかりと取り組む。20年代は実証プロジェクト中心で、30年代以降、新エネの需要は本格化すると見ている」

――洋上風力のラウンドワンは三菱商事が撤退。見直し機運もあります。

「ラウンド1は事業者再選定により停滞しているが、ラウンド2や3は着実に進捗していると理解している。海外はトランプ政権やサプライチェーンでのコスト上昇もあって、30年までの導入は下振れしているが、当社としては風力発電用大単重厚鋼板『JーTerraPlate(ジェイテラプレート)』の販売にしっかり結び付けていきたい。極厚、大単重の厚板で、利用に際して生産効率が高められ、工期短縮できる。台湾、欧州での販売に続いて他の海外地域からの引き合いも堅調だ。ファブ、事業者と連携しながら対応を進める。モノパイルのほかジャケット、タワーも販売先として考えられる」

――その他の新エネ対応は。

「アンモニア、液化CO2、水素に対応する。アンモニアは船舶や陸上のタンク材需要があり、大型化にも対応する。各用途に適した材料を開発して上市する。船舶用の液体アンモニアタンク向け低温用鋼板は受注量が累計で5万トンに達した。規格化・基準化という点でも対応を進めており、『高圧水素パイプラインの国内基準化に向けた導管材料の水素適合性と耐震設計に関する研究開発』では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDО)事業に採択されるなど、対応を進めている。既存分野での新エネ需要もあれば、CN分野で新たなインフラ需要が出てくる。社会資本として必要不可欠であり、厚板部隊としてしっかり供給することは使命と思っている」

――トランプ政権は米国に入港する中国製船舶や日本の自動車運搬船から手数料の徴収を始めました。一方で日本政府では国内造船の再復興と米国造船の支援を打ち出しています。今後の影響をどう見ていますか。

「中計策定後、造船は経済安全保障も絡んで大きく動いている。米国への入港税は日本造船にとってプラスにもマイナスにも働く可能性があるが、米国への荷動きが停滞する懸念もあり注視していく」

――日本では造船再復興の政策提言も行われ、造船大手17社が3500億円を投じる建造量倍増や、1兆円以上の基金創設の話もあります。

「日本が保有する船は日本で造る、そのために政府が支援する、という経済安保から繋がっている話だと理解している。非常に意欲的な目標感だとは思うが、厚板の需要拡大につながる動きであり、大いに期待している」

――グリーン鋼材『JGreeX(ジェイグリークス)』の取り組みについて。

「JGreeXは用途拡大の段階に移行してきた。船舶などの採用から着実に用途は増えている。取引先の天井クレーンなどにも採用された。環境に対する意識が高まり、認知は進んでいる」

――研究開発で現在、注力していることは。

「DX適用の技術を開発中だ。全社で進めるサイバーフィジカルシステム(CPS)の導入に取り組む。8次中計の中で自動化、労働生産性の向上が狙いで、これらを適用させていくとともに、必要な設備投資を実施していく」

――倉敷地区では革新電気炉などを導入、28年度から生産を始めます。

「付加価値のある商品の製造を確立すべく、成分設計の見極めを行い、試作・確性を進め、順次ユーザーへ展開していく」

――倉敷地区でのバンキングの影響は。

「当面の間は足元の厳しい事業環境が継続する見通しにあることを踏まえた対応であり、より効率的な生産体制で操業を行っていく。厚板生産における操業への影響はない」

――建設分野は全般的に需要が落ち込んでいます。関連する流通対応は。

「建材は中小案件に遅れが出るなど厳しい事業環境にあるが、厚板の販売には加工・切断が不可欠で、それを届けて頂いて初めて商売になる。さらには溶接も含めてワンストップでユーザーに製品を提供することがより求められてくる。発展的に、どういう付加価値を高めるか、シャーと会話して連携を図っていく。流通との連携は必要で、グループであってもなくとも、引き続きパートナーとして重要だ」

――輸入材の動きについて。

「海外市況は低迷しており、内外価格差の問題もあり、将来的には拡大の懸念はある。但し厚板はハンドメイドで、且つデリバリーもジャストインタイムを求められる為、販売価格だけではなく、トータルコストで見た時にどこまで脅威となるかだ。厚板の輸入材が急拡大している状況ではないが、注視していく」

――海外対応は。

「韓国の東国製鋼への操業支援、歩留まり改善などを継続。伯・ゲルダウとも操業技術での交流支援を続けている。アブダビの原油・天然ガスパイプライン用大径溶接鋼管の製造合弁会社、アル・ガービア・パイプ社(AGPC)は中東での旺盛な需要を背景に好調だった」

――厚板セクターの設備投資は。

「基礎的な大型投資は第7次中計で完了し、今後は需要変化、新エネ対応などニーズの変化に対応し、製造可能範囲の拡大、精整工程など必要な投資を適宜、実施する」

――収益強化へ向けた価格政策は。

「従来から取り組んでいる、価値に見合ったエキストラ改定は概ね完了した。但し、物価、人件費とコストの上昇は続いており、環境変化に合わせた価格反映は継続して進めていく。顧客と対話し、ご理解を得られる様に活動を行っていく」









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