「中国の過剰輸出によって国内外の鋼材市況が低迷する中、北米建材事業の利益貢献が縮小し、一部海外事業の収益悪化も加わった。例年のことだが受取配当を計上する上期の利益がより多く、25年度は下期に海外事業の引当を実施したこともあって段差が大きくなった」
――23年度は上期447億円、下期356億円、24年度が294億円、220億円と減少傾向にあるが回復に転じる。
「米国市場ではニューコアが毎週10ドル単位で値上げを発表している。1年前に比べると少し出遅れ、マージンもまだ薄いが、緊迫していた中東情勢が収束に向かい、原油価格も落ち着き始めた。ホルムズ海峡の通航が再開され、原燃料や素材・部品などを含めたサプライチェーンの目詰まりが解消されれば、被災地の復旧資材を含め、広い地域で鉄鋼需要が回復すると期待している」
――得意とする鋼管分野への中東情勢による影響は。
「中東の産油国は、輸送できないので生産は制約されているが、掘削は続けている。鋼管の消費は少し減っているが、大きな影響は見られない。和平交渉が合意し、平静が戻ってくれば、その影響も徐々に解消される。一方、産油国である米国の掘削リグが増えたかというと、そうでもない。メジャーオイルが独立系を買収し、プレーヤーの集約が進展。資金効率を優先するメジャーは慎重姿勢を崩しておらず、鋼管需要が大きく増えるということにはなっていない」
――長期ビジョン実現に向けて第1ステージとなる第8次中期経営計画(24-26年度)が最終年度に入った。
「2030年に向けて『鉄鋼流通におけるグローバルトップ』を目指す長期ビジョンを掲げている。新たな時代を担う経営幹部層を育成し、圧倒的な利益基盤を構築する。キャッチフレーズは『トレード×インベストメント』。トレードで培った知見と人脈を活用し、戦略投資を積極展開しながら、ビジネスモデルを大きく変えていく。『基礎収益力の強化』、『DXやGXをリードするトレード機能の強化』、『次世代の経営を担う人材の育成』を重点課題に掲げており、それぞれ進展している」
――第8次中計では、第7次中計において400億円まで積み上げた基礎収益力をさらに200億円上積みする計画。
「市況や為替に左右されない基礎収益力の構築に取り組んでいる。優良資産の積み増しと既存ビジネスの付加価値拡大を両輪に位置付け、それぞれを推進している」
――既存ビジネスの付加価値拡大の進捗状況は。「人手不足が社会問題化している国内では、切断など1次加工に加え、曲げ加工や穴開け加工など2・3次加工を取引先から依頼されるケースが増えている。例えば東北地方では、昨年の米価上昇を背景に米農家の作付けが増え、その結果として米乾燥機の需要が増えている。乾燥機に使用される鋼板の加工需要の増加を受けて紅忠コイルセンター東北は収益が大きく伸びている。2・3次加工や小口・即納などの機能、付加価値を価格に転嫁し、収益力を高めていく」
――連結ベースでの売上高総利益率の改善に取り組んでいる。
「6%台だった売上総利益率が22年度7・03%、23年度7・15%、24年度7・18%、25年度7・41%と上昇を続けている。中長期的に10%以上を目指している」
――優良資産の積み増しは着実に進展している。
「世界情勢が大きく揺れ動いているので、既存の投資先を通して事業を拡大するロールアップ系が中心となっている。英国の建設・インフラ・エネルギー用鋼材の加工・流通企業、バークレイ&マシソンを通じてスコットランドで厚板を加工・在庫販売するアンガス社を買収した。アンガス社は、造船、オイル&ガス関連の高付加価値加工を手掛けており、安定した収益を確保している。日本製鉄がUSスチールのスロバキアにある製鉄所を分離し、NSSKとして直接投資に切り替えた。西欧の製造業が拠点をシフトしている東欧でのビジネスチャンスを窺っていく」
――アイルランドではスタートアップに投資した。
「浮体式洋上風力発電向けの独自技術による鋼製の係留アンカーを開発した企業で、再生エネルギー関連事業拡大の一環として投資した」
――米国では収益基盤をさらに拡大している。
「商業施設向け軽量鋼製フレームで全米4割のシェアを持つCDBSを通じて同業のスタッズ・アンリミテッドを買収し、建築用スチールフレームの製造・販売ネットワークを中西部、西海岸から南西部へと大きく広げた。おもに住宅用の金属製部材を製造・販売するクオリティ・エッジは、ジェネシー・ビルディング・プロダクツの買収によって北東部に拠点を広げて業容も拡大した」
――ピッツバーグ事務所を開設した。
「トランプ大統領の自国第一主義による関税政策によって、米国では鉄鋼製品や周辺産業の地産地消の流れが加速している。自動車、建設、エネルギー、インフラ分野のサプライチェーン拡充を目的にピッツバーグ事務所を昨年11月に開設。本社の取締役経験者を派遣しており、USスチール、日本製鉄とのビジネスチャンスの創出に向けて活動を本格化している」
――コイルセンター事業は、MSPの第2工場を建設中。
「北中米では5社7拠点のコイルセンターを展開している。MSPは、USスチールとワージントン・スチールが共同運営するコイルセンター事業のひとつだったミシガン州のジャクソン工場を22年に買収したもので、自動車・部品メーカー向けのUSスチール製鋼材を扱っている。第2工場は、アーカンソー州にあるUSスチールのミニミル、ビッグリバー・スチールの第2期プロジェクトの門前に建設中。27年12月の操業開始を予定している。大型スリッターを導入して最大幅2メートル、4・5ミリ厚の大型コイルを一次処理加工し、中南部市場における最適サプライチェーンとサービスを提供していく」
――事業投融資枠は設けていない。
「総資産1兆7000億円、自己資本比率36・8%、負債資本倍率0・79倍と財務体質は健全。検討中の案件は常に並んでいる。事業化調査を徹底するが、ビジネスチャンスは逃さない」
――もう一つの重点課題が『次世代の経営を担う人材の育成』。
「国内外の事業会社が100社を超えている。創業25周年を迎えて伊藤忠丸紅鉄鋼入社の社員が8割を超えてきた。本社・グループ会社の次世代の経営を担う人材の育成には特に注力している。商社ビジネスの醍醐味を感じ、将来展望を拓いてもらうため、私が講師となって600人を超える総合職と少人数クラスでの勉強会を行う等、先頭に立って、世代を超えた交流の機会を設けている。今年は副社長はじめ取締役が加わり、本社・グループ会社を含めて若手の勉強会を続けていく。人事異動ではストレッチアサインメント制度を導入し、海外の事業会社や現地法人の責任者ポジションに30歳代の社員を抜擢し、経験を積ませている。一人頭の研修費用も総合商社に引けを取らない人材投資を続けていく。課長になるまでにビジネススクールを経験するように年間30人前後、国内に加えて米国のハーバード大学、ノースウエスタン大学、スイスのIMDなど世界トップクラスのビジネススクールに派遣している」
――さて鉄鋼市場の構造変化が加速し、かつて8000万トンあった国内需要が5000万トン前後に縮小し、4000万トン台前半に落ち込む可能性も指摘されている。
「流通業界全体で、需要縮小に対する危機感は共有できている。商社系列、オーナー系を問わず、設備更新投資の効率化、サプライチェーンの高度化などの視点で共通利益を追求していきたいと考えている。中国地区ではマツダスチールと紅忠サミットコイルセンターを事業統合し、効率化と高付加価値化を追求している。伊藤忠丸紅住商テクノスチールも含めて、オーナー系の特約店、問屋とも情報・意見交換の場を増やしている。物流問題も深刻化しており、待機時間や荷役作業時間などの見える化を図り、輸送効率を高めて収益性を引き上げる取り組みを進めている」
――需要が伸びる分野、市場開拓のチャンスもある。「政府が『戦略17分野』を打ち出し、造船、資源・エネルギー、AI、デジタルなどの産業競争力を確保するための高機能鋼材の開発と安定供給が求められている。『グリーン鉄』の国内生産・技術基盤の構築もテーマに盛り込まれ、GXスチールの価値の見える化、公共工事を含めた市場環境整備も方向性として示されている。国土強靭化、半導体工場、データセンター、物流関連施設など土木・建設分野においては、省力化、短工期に直結する高機能鋼材の安定供給が求められており、商社機能を発揮するチャンスも広がっていく」
――一方、輸出・海外市場の開拓も期待されている。
「中国の鋼材輸出増加によって関税障壁が広がり、輸出環境は厳しくなっているが、品質要求が高い分野や安定供給の期待もあって日本の高炉メーカーの製品は高く評価されている。DXやGXを利活用しながらトレード機能を強化し、市場を開拓していく」
――インドでは事業投融資を積極展開している。
「国内需要が急拡大しており、鉄鋼生産も伸びていく。現地のJSWスチールとの合弁事業、JSWMIはプネ、チェンナイ、デリー、アーメダバードの4拠点で自動車用鋼板、電磁鋼板のコイルセンターを展開しており、拠点の追加を含めて加工能力を現在の年間110万トンから200万トン規模へ拡張する予定。現地のマグナム・ストリップ&チューブと二輪・四輪用のメカニカルチューブメーカーやコイルセンターを共同運営し、カパロ・エンジニアリングとは自動車用TWBの合弁事業を運営している。日本製鉄、JFEスチールが現地生産規模を拡大する中、現地企業トップとの関係を広げるなど、市場開拓を積極展開している」
――豪州でも市場開拓を進めている。
「金属・エネルギー資源国としての成長が見込まれており、水素・ガス、CCUSなどプロジェクトも多く、高機能材の輸出マーケットと位置付けている。現地法人、厚板加工流通、鋼管販売の3社で市場開拓を進めている」
――アフリカも視野に入っている。
「中東、アフリカは重要マーケットと位置付けている。現地の鉄鋼生産能力が限られるので、日本の高炉メーカーの国内外拠点からの輸出市場となる」
――日本は高度循環型社会への転換を迫られており、GXスチールの市場開拓も期待されている。
「高炉メーカーのGXスチールについては、プレミアムの理解活動を進めながら、拡販に取り組んでいる。東京本社は、オフィス家具やパーテーション、オフィス内階段等にGXスチールを採用した。また、東京ガスと一緒に鋼材・加工メーカー向けに低炭素鉄鋼製品の開発・販売を支援するサービスを立ち上げ、昨年12月にウインファーストとサービス契約を締結。このほどウインファーストが非化石電力鋼材の異形棒鋼『ECOBO(エコボ)』の販売を開始した。NTTドコモビジネスと共同運営する脱炭素ソリューション『MIeCO2(ミエコ)』の利用も大きく広がっている」
――電炉プロセスへの転換が加速する。
「カーボンニュートラル(CN)に向けた取り組みの一環として、コイルセンターはじめ国内のグループ会社で発生するリターンスクラップ、さらには納入先からのリターンスクラップを伊藤忠メタルズ、丸紅テツゲンメタルズの機能を活用しながら効率的に回収し、鉄鋼メーカーへ供給する仕組みを構築していく」(谷藤 真澄)
























