2020年9月15日

「未来へ 見出す活路 ステンレスメーカー、体質強化にギア」 高機能製品開発に磨き 他素材から置換進める

 ステンレス鋼は耐食性や耐熱性、強度や意匠性など多彩で高い機能を有する。ライフサイクルコストやリサイクル性にも優れ、世界的に普及が進んできたが、人口減少など構造的問題を抱える日本は中長期的に需要の減少が避けられない。技術の進歩や生産能力の増強が著しい新興国のステンレスメーカーとの競争は激しさを増すばかり。市場環境の変化を踏まえ、国内のステンレスメーカーは体質強化の取り組みのレベルを一段引き上げようとしている。

 日本鉄鋼連盟によると、2019年度のステンレス鋼生産は米中貿易摩擦の影響などを受け、233万7000トンと前年比7・6%減少した。20年度は景気の減速に新型コロナウイルス感染症による経済活動の停滞が加わり、4―6月期の生産は45万5000トンと前年同期比21・7%減少した。下期も需要は低迷し、年間の生産量が前年を割るのは確実だ。

 ステンレス鋼の国内需要はリーマン・ショック前の水準を下回っている。成熟した市場は少子高齢化などで将来、建材分野中心に縮小するため、ステンレス業界は構造改革を進めている。

 19年4月1日、新日鉄住金ステンレスと日新製鋼のステンレス事業が統合し、日鉄ステンレスが発足した。発足初年度は景気減速が顕著になり、市中の在庫レベルが上昇するなど厳しい船出となったが、薄板4事業所の抜本的製造実力向上や棚卸資産の回転率向上、不採算明細の解消など事業体質の強化策を推進。赤字が続いていた衣浦製造所の熱間圧延設備などの休止を決断した。

 日本冶金工業は製造のコストダウンや高級品へのシフトを加速させ、収益基盤の強化を目指す。22年1月稼働をめどに川崎製造所に70トン交流電気炉はじめ高効率電気炉設備を導入する。60トン電気炉2基を新鋭の70トン電気炉1基の体制に切り替え、電気炉の能力ネックを解消して生産効率を高める。安価原料使用やエネルギー効率アップなどでコストを引き下げる。特殊合金の溶解工程は従来比2倍の炉容積の60トン炉1基を専用炉とし、大ロット化によって歩留まりを向上させ、高機能材のシェア拡大を狙う。

 【差別化戦略を加速】

 日本のステンレスメーカーは汎用品中心の海外メーカーと一線を画す。高品質や高機能の付加価値の高い製品をマーケットに投入し、汎用品からの置き換えに取り組んできた。ステンレス専業一貫メーカーの日鉄ステンレスと日本冶金工業、クロム系に特化するJFEスチールは差別化を実現する製品開発にそれぞれ取り組んでいる。

 日鉄ステンレスは企業統合によって独自製品のバリエーションが拡大した。世界初の錫添加高純度フェライト系ステンレス鋼「FW(フォワード)シリーズ」や、ニーズが増えている省合金二相ステンレス鋼の採用実績を着実に積み上げている。

 日本冶金工業はニッケル含有量の多い高機能材を得意とし、磨きをかけてきた。耐高塩化物と耐硫酸腐食の性能を有するとともに、従来の高耐食ニッケル基合金に比べてコストを抑制できる「NAS355N」を、同社独自のニッケル基合金として開発。19年度の高機能材の販売量は3400トンで、輸出比率74%と世界経済が減速する環境下にあって高水準を維持した。

 JFEスチールは、省資源型フェライト系ステンレス鋼「JFE443CT」をSUS304の代替品として、幅広い分野で浸透させている。「JFE445NT」はSUS316、SUS444と同等の優れた耐食性を有する。自動車の排気系部品に使われる「JFE―MH1」と「JFE―TF1」は高耐熱・加工性が需要家に評価され、新型車への採用を伸ばす。

 【採算確保と市場安定化を目指す】

 超高齢化時代の到来や水素など新エネルギーの開発、甚大な自然災害に備える国土強靭化対策などによってステンレス製品の新たなニーズが創出されている。岩手県宮古市に設置された日本最大級の陸閘門(りくこうもん)に日鉄ステンレスの省合金二相ステンレス鋼が採用されたのが代表例。強度の高い二相ステンレスを採用することで比較的簡略な桁構造を可能とし、軽量化を実現している。アルミ合金製品が多く使われてきたが、ステンレス鋼のメリットが高く評価された。

 メーカーが統合・再編を続けた結果、ステンレス業界は安定化し、過当競争で企業体力を消耗する事態は避けられている。だが、近年は輸入材が高い水準で定着し、国内市場への影響力を徐々に増している。需要家が選択可能な素材が多様化する中、国内メーカーが生産量を維持し、収益を確保するためには製品や利用技術の開発により力を入れ、幅広いニーズを捕捉しなければならない。

 ステンレス鉄筋など海外に比べて普及が進んでいない品種がある。業界を挙げてアピールを一段と強化することで他素材からの置き換えを進め、市場を開拓する必要がある。

先進技術さらに向上へ 中国の増産攻勢かわす

 世界のステンレス市場で中国は圧倒的な存在感を放っている。国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)が発表した2019年のステンレス粗鋼生産は過去最高の5221万8000トン。このうち中国は2940万トンと5割強を占めた。インフラ整備などで増える国内需要を捕捉するため、中国メーカーは増強投資を続け、ステンレス生産は至近10年間で約3倍に拡大した。

 ISSFは、20年の世界のステンレス消費を新型コロナウイルス感染症が与える経済への影響を踏まえ、前年比7・8%減の4124万トンと予想。21年は同8%増の4452万トンの予想とコロナ収束後のV字回復を見込んでいる。

 中国の消費は20年6・5%減、21年6・3%増の予測。産業や消費のレベルが上がったことでステンレス製品の性能が認められ、他素材からの代替が進んでいる。メーカーの供給能力は消費以上に増え、内需で消化し切れない製品が輸出に回る。近年は欧米などとの貿易摩擦が響き、19年のステンレス鋼材の輸出は367万2300トンと、4年ぶりに減少に転じた。

 【中国製品じわり浸食】

 日本市場を見ると、中国製ステンレス鋼板の輸入が定着している。財務省の貿易統計によると、1―6月のステンレス鋼板の輸入は前年同期比7・8%増の10万2282トン。最も多い韓国からが6%増の7万4369トン、続く台湾は7・7%増の1万3886トン。中国は1・5倍の1万1324トンと大幅に増え、韓台中3カ国で全輸入の97%を占めた。

 中国製の鋼板輸入は月間500トン前後だった16年から18年2月に1252トンと急増。以来、月間1000トン前後が続き、20年1月に2000トンを超えた。7月は1620トンとなり、前月比は4カ月連続で減少したが、前年同月比は4カ月連続増加した。日本の需要量に対して少ないながら、輸入量は過去3年で倍増した。「国内製品に比べて大幅に安く、品質も悪くはない」(流通筋)。需要家の評価は高く、浸透が進む可能性がある。

 世界は保護貿易主義が台頭し、日本のステンレス製品が各国からアンチダンピング(AD)措置を受けている。国によってはAD以外の貿易救済措置を取る動きも見られ、日本製品は輸出が難しくなり、国内メーカーの収益を悪化させる要因の一つになっている。

 国内メーカーは輸出に占める高付加価値製品のウエートが比較的大きく、高い製品特性を認めている海外需要家から安定供給を求められるケースが多い。ステンレス製品を取り巻く事業環境は急激かつ大きく変化し、汎用品分野を中心にステンレス製品の国際競争が一段と激しくなる中、輸出阻害要因が増えれば国内メーカーにとって死活問題となる。

 【海外展開とニッチ戦略追求で活路】

 中国鉄鋼最大手の宝武鋼鉄集団は8月、国有ステンレス大手の太原鋼鉄集団を子会社化すると発表。合計粗鋼生産量は年1億トンを超え、世界首位となる。ステンレス世界首位にも近づく。太鋼集団はインドネシアでステンレス工場の建設を計画。宝武集団の経営資源を得て海外事業を拡大することにもなり、国内外に強い影響力を発する見込み。

 中国勢の海外展開が加速している。世界的に潜在需要の大きいステンレスは鉄鋼メーカーにとって魅力のある鋼種だ。

 中・長期的に群雄割拠が起こり得る海外マーケットで、国内メーカーは販路を維持しなければならない。海外に事業会社を持つ日鉄ステンレス、南京鋼鉄とJVを組む日本冶金工業は海外拠点を生かすとともに提携先との関係深化を図りながら、周辺国含め現地のニーズを取り込む。

 一方、ステンレス圧延大手の日本金属、特殊鋼やステンレスの冷間圧延加工等を手掛ける特殊金属エクセルが推進しているニッチ戦略も有効に働く。両社はオンリーワン・ワールドワンの独自材料を開発・製造しており、「10年後、数十年後の変化に備え、必要とされる新たなニーズに応え得る『ものづくり』の体制を構築する」(下川康志・日本金属社長)。

 「素材メーカーと当社、需要家をつないで、どのような製品を開発すれば需要家を市場の勝利者にできるかを一緒に悩み、最適解を探している」(水谷徳次郎・特殊金属エクセル取締役兼COO)。

 高付加価値製品によりシフトしていかなければ生き残ることはできない。国内メーカーは技術先進性を誇る世界のトップランナーとして、これまで以上の速度で技術力をさらに磨く必要に迫られている。

(濱坂浩司、福岡紀子、北村康平)

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