2022年6月10日

財務・経営戦略を聞く 神戸製鋼所取締役 勝川四志彦氏 販価改善の効果見込む CN対応、コスト削減推進

――2021年度は大幅な増収増益に。

「需要がある程度戻り、鋼材やアルミなど販売量が一定程度改善した。原料高が続いたため、特に鋼材は他の鉄鋼メーカーに比べ、製品構成の違いと紐付き率の高さから価格転嫁が早期に進まなかったが、一方で在庫評価益を得て大幅な増益となった。機械は20年度に停滞した受注が回復し、受注高は2000億円超と過去最高。建機は需要が弱く、競争が厳しい中で若干の減益となった。前回の利益予想から上方修正できたのは価格改善が進んだことが大きく、原料価格の上昇による在庫評価益もあった。鋼材事業の在庫評価益を除いた利益はなお赤字だが、下期は黒字化となった」

――需要を見通すのが難しい中で22年度の業績予想を発表した。連結経常利益は800億円と前年(932億円)を下回るものの、在庫評価影響を除く実力損益は760億円(422億円)と前年を上回る計画だ。

「原材料価格は懸念材料であり、中国のロックダウンの影響で部品供給が滞り自動車の生産台数が減少するなど需要に不安要素はあるが、価格改善の進展など皆様にご理解いただくことが大事と考え、一定の前提を置いて業績見通しを発表した。鉄鉱石はトン150ドル、強粘結炭は500ドル程度、需要は年度後半に自動車生産が戻ると想定し、為替は対ドル120円とみているが、これら前提がどう変化するか注視する。価格改善の高さは3月末時点で一定程度確保できたが、転嫁が遅れたものも含めて22年度に価格是正を推し進める。価格改善の効果を通期で得ることで500億円以上の改善効果を見込む。変動要素が多い素材系と異なり、昨年に受注高が増えた機械やエンジニアリングは予想が立てやすいという事情もある」

――ロシア・ウクライナ問題の直接的影響は軽微とのこと。中国のロックダウンの影響はどうか。

「当社のロシア向け取引については販売面でミドレックスプラントの既受注案件等があるものの、当社グループ連結売上高の0・5%未満と影響は小さい。原材料の調達面ではロシアからの石炭やアルミ地金があるが、代替調達を進めていることで鋼材やアルミの生産への影響は軽微と見ている。中国はコロナ禍の中でも自動車の販売台数は堅調で、アルミパネルの製造拠点である神鋼汽車鋁材(天津)は高操業を維持している。一方でロックダウン解除後も部品供給の回復に時間を要するとみられ、日本の自動車生産への影響が懸念される」

――22年度の経営課題は。

「まずは販売価格の改善だ。鉄鉱石価格は高止まりし、原料炭の価格が特に上がっているが、出荷前に販売価格を先決めすることを検討している。鋼材だけでなく、アルミもマグネシウムやシリコンなど副原料価格が高騰している。副原料価格の業績に与える影響が大きくなり、調達費の上昇分もお客様に認めていただくよう申し入れを行っている。建機は鋼材を多く使用するので製造コストが上がっており、製品価格に反映させていきたいと考えている」

――粗鋼生産は670万トンと前年より増える計画だ。

「上期・下期ともに21年度を若干上回る想定だが、見込んでいる需要等の前提が変わると生産を調整する可能性はある」

――カーボンニュートラル(CN)への対策として低CO2高炉鋼材を打ち出した。

「高炉へのHBI(熱間成形還元鉄)の投入によるCO2排出の削減を実証し、外部認証を受けた。22年度の販売量はCO2を100%削減した鋼材で約8000トンが上限となるが、2030年には100万トン以上を目指す。自動車分野に限らず他分野のお客様からも興味を持っていただき具体的なお話もあり、これらのニーズを捉えていく。HBIは複数の海外ソースからの調達を検討しているが、HBIの使用によるCO2削減の取り組みを優位に展開できるようコスト削減など改善を続ける。ただ、CNにはHBIの使用だけでなく複数のアプローチがあり、研究開発を進めるうちに最もコストの低いものに収斂されていくとみている」

――電炉による高級鋼製造もCN対策の一つに挙げている。

「検討はしているが、加古川の高炉改修は30年代半ばの予定なので高炉を維持するのか、高炉と電炉の併用なのか、電炉に切り替えるのかなどを決めるタイミングはもう少し先になる。30年目標の30―40%のCO2削減は高炉2本稼働を前提にしているが、HBIの投入次第でコークス炉更新の規模を減らせる可能性があるなど状況次第で判断が変わってくる。大型電炉は保有していないが、高砂製作所の鋳鍛鋼工場に小規模の電炉があり、電炉操業については知見がある。電炉での高級鋼製造は将来にわたって上級スクラップを安定確保できるかなどの、原料調達の状況も判断要素となる。また、CCUS(回収・有効利用・貯留)のコストも生産プロセスを検討する際の判断材料となる」

――製造面の課題は。

「メンテナンス・保全を強化して安定生産を確保する。粗鋼生産600万トンでも赤字を回避し、630万トンで安定収益を確保できる体質を現中期計画で築こうとしており、省人化などコスト削減に取り組んでいる。建機はDXを活用して遠隔運転を進めるが、製鉄所に建機のDXを応用する等、DXによる省人化や働く環境の向上など広い視野で安全や安定操業の確保に努める」

――アルミと銅板は販売増を予想する。

「アルミ押出し材は採用車種が増え、銅板は半導体の需要が増えている。自動車はセンサーの数が増えることに伴い半導体の使用量が増えることで、リードフレームの需要が増えるとみている。自動車メーカーは足元減産が続いているが、後半に挽回する計画であり、今のところ銅板需要への影響はみられず、自動車のEV化やCASEの進展で銅板の需要は増えるとみている。当社は傘下に加工ができるグループ会社を構えているので市場が高度化するほど製品の付加価値を高めることができる」

――建機事業は収益の柱だった中国の販売が減り、欧米や東南アジアで伸ばす戦略に切り替えている。

「中国の建機市場が急速に縮小している。不動産建築が低迷しているためだが、現地メーカーとの競合が激しく、収益や回収が厳しくなっている。中国依存を低下させ、他の地域で増やすことで事業の構造を変えていく」

――海外事業は。

「北米は需要が堅調で鋼材市況が高く、現地の自動車用鋼板製造販売会社のプロテック・コーティングの21年の業績は好調だった。コロナ禍の影響で少なかった自動車の販売台数が22年の後半に向けて増えれば高い業績を維持すると予想している。北米のアルミ押出は徐々に受注が増え、伸びるマーケットの中で事業を軌道に乗せていく。東南アジアはコロナ禍の影響が続き、製造業だけでなく建設分野も鈍い。グループ会社のコベルコ・ミルコン・スチールは建設用の普通鋼線材が減少し、自動車用の特殊鋼線材は徐々に増えているが、年後半の回復を期待する。中国はゼロコロナ政策の影響が続き、需要の回復にやや時間を要するが、景気対策をどの分野にどの程度の規模で行うのか注視したい」(植木美知也)

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