2023年9月14日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて/日本冶金工業社長 久保田 尚志氏/製品と原料の多様化 追求/インドと中東、成長市場開拓

――ステンレス鋼マーケットを取り巻く現状から。

「昨年の市況上伸以降、需要の落ち込みが顕著で、厳しい状況が続いている。大規模再開発関連需要に期待していた建築では、人手不足による着工遅れの影響もあると聞く。幅広い需要家で調整局面が長引いている。輸入材の高水準の入着も加わり、在庫が膨らんだ。市中在庫が需要見合いの水準に落ち着くのは、年末までかかるとみている」

――ニッケル高合金などの高機能材も厳しい局面だ。

「高機能材の主力地域は海外だが、ウクライナ情勢に起因する原燃料変動、米国のインフレ、米国の金利政策動向による景気減退、中国の経済停滞、米中摩擦の深刻化などの影響で厳しい受注環境が続いている。比較的堅調であった米国向け耐久消費財(シーズヒーター、バイメタル)も住宅着工件数の減少を受け、低調に推移している。一方、オイル&ガスの需要は活発化し、太陽光発電関連、水素関係の需要は比較的堅調である」

――2024年3月期を起点とする3カ年の中期経営計画を策定した。

「目指す姿は『“製品と原料の多様化"を追求し、ニッケル高合金・ステンレス市場におけるトップサプライヤーとして地球の未来に貢献』とした。製品の多様化とは、ステンレス鋼・高機能材のバリエーションの拡充で需要家のCN達成に素材で貢献すること、原料の多様化は都市鉱山の有効活用で、カントリーリスクを抱える原料調達ソースを広げることを指す。川崎製造所(川崎市川崎区)の冷延工程のボトルネック解消など、製品の多様化を支える生産能力を強靭なものとし、大江山製造所(京都府宮津市)はカーボンレス・ニッケル製錬の実現に向けて、業界に先駆けて技術開発を進める。これにより原料調達の拡大のみならず、環境負荷を抑えたステンレス鋼が提供できる点を武器としていきたい」

――CO2排出46%削減(13年度比)の達成時期を、30年から5年前倒しした。

「削減率の基準となる13年度の時点では、大江山の排出量が川崎を上回っていたが、カーボンレス・ニッケル製錬に向けた取り組みにより、都市鉱山の活用比率が55%まで拡大し、現在では逆転するほど削減が進んだ。こうした都市鉱山の比率拡大やLNGへの燃料転換等を含むロードマップの進捗も順調であることから、46%削減が早期で達成できると判断し、5年前倒しした。川崎は21年の高効率電気炉(E炉)導入の省エネ効果が大きい」

――新中計では高機能材の成長市場としてインドと中東を挙げた。拠点の開設は。

「これらの国は現在、シンガポールの販売現地法人が担当しているが、最適な拠点配置など、今後検討を進めていく。インドは人口増に伴うマーケット拡大や環境規制と投資の高まりで高機能材需要が期待できる。中東で旺盛なオイルガス需要は、インド製プラント設備が主体となっている。得意とする中国だけでなくインドなどアジアで多方面に需要を開拓したい」

――中国では南京鋼鉄とのJVが順調だ。

「中国需要を捕捉する戦力として成長している。製造の面では同社の広幅圧延設備が、川崎製造所の熱間圧延能力を補完している。今後も、高機能材の広幅・大単重化で鋼種を拡大するなどの開発を進める。顧客も中国国内が中心だが、今後はJVの製品を輸出するスキームも視野に入れる」

――23年4-6月期決算の振り返りと、今後の見通しを。

「販売数量は前年同期を下回る水準だが、販売価格については、原料価格の上昇とその後の下落までの時間差でスプレッドを確保できたことで、経常利益は前年同期比75・4%増の70億5400万円と、厳しい事業環境下ながら利益を確保できた。在庫評価益は前年に比べ大きく減少。評価益に依存せずとも実力の収益が大きく改善している。今期は、販売数量減少と前年まで続いた値上げ効果がなくなるが、それを価格原料変動で相殺するとみて、通期見通しを据え置いた」

――今後の設備投資は。

「川崎製造所は24年に、薄板工場で冷間圧延設備を新設導入し、製造所内に水素試験棟を開設する。水素環境での材料評価試験の内製化が目的だ。」

――デジタルトランスフォーメーション(DX)の現状は。

「どのようにDXへ取り組むのかを議論しており、戦略を掲げた上でロードマップに沿って取り組んでいく。グループ全体のシステム再整備に伴い、当社だけでなくグループにDXを広げていきたい」

――公正取引委員会が公表した『ステンレス冷延鋼板に関する問題解消措置』に基づく、クロム系ステンレス鋼のOEM供給は24年3月で期限を迎える。

「当社で大部分のアイテムの供給を開始するめどが立った」

――輸入材の高水準の入着が続く。

「海外のステンレスメーカーに競争力があることは否定しないが、ニッケル原料価格に連動せず、採算度外視で理に合わない価格設定の輸入材が入着し続けることに疑問を感じる。このような価格競争は海外メーカーの業績に影響をもたらし、自らの首を絞めることになるのではないか。輸入材がわが国のステンレス市場に損害を与えることが明らかとなった際には、国内産業を守るために何らかの措置を講ずるべきだ」

――グループ各社はどうか。

「グループで当社のステンレス鋼を販売するのは、コイルセンター機能から梱包資材まで扱うナス物産と、地域密着のきめ細かい対応と加工に強みを持つクリーンメタルの2社。クリーンメタルは当社にとってステンレス業界の体温計のような存在で、実需はどうなっているのか、市中での輸入材の動向もクリーンメタルを通して把握できる。みがき帯鋼のナス鋼帯、溶接鋼管のナストーアは高機能材路線に注力していきたい。この分野では、ナス鋼帯が先行して取り組んできていたが、ナストーアも地熱発電所で二相ステンレス鋼管が採用されるなど、着実に汎用ステンレス鋼管以外の需要が増えている。当社同様に高機能材をグループ一体で強化する」

(北村康平)

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