新社長に聞く/三井金属 池信 省爾氏/やり方変えて結果を追求/銅箔、M&A含め増強判断

新社長に聞く/三井金属 池信 省爾氏/やり方変えて結果を追求/銅箔、M&A含め増強判断
三井金属は2025年度の連結経常利益が1367億円と、過去最高を更新した。注力事業の銅箔が順調に伸びているのに加え、金属事業でも相場上昇や円安の追い風を受け750億円の利益を出した。現中期経営計画「25中計」策定時に掲げた30年度の利益目標1000億円は、1500億円へと上方修正。4月に就任した池信省爾社長に、さらなる収益拡大策などを聞いた。

――社長就任の抱負を。

「10年前に16中計を納武士前社長(当時は機能材料事業本部副本部長)とともに策定した際、企業価値を高めて皆がわくわくできる会社にしたいと話していた。当時はP/L主義だったが、いまでは皆が企業価値を意識するようになっている。わくわくとは1年後、5年後、10年後はもっと良くなると思えることだと定義しており、この考えはしっかり持ち続けたい。企業価値を高めて従業員やその家族、サプライヤー、需要家などに三井金属と関わって良かったと思える人が増えてほしい」

――25中計初年度を終えての評価を。

「在庫要因なども重なり業績は非常に良かった。結果の数字は外部環境が大きく影響するが、我々はやり方を変えて結果を変えることを追求しており、その意味でも決めたことは順調に進んでいる。機能材料事業は銅箔を中心に想定より速く、着実に利益成長している。金属事業も確実にリサイクル原料を処理し、そこに追い風が来てキャッシュをしっかり得られたという整理をしている。27年度の経常利益は当初700億円を計画していたが、このままいけば1150億円に上振れしそうだ」

「25年度にスタートした『大胆施策』も進捗している。投資家目線で運転資本が無駄になっていないかなどの事業評価をし、稼いだキャッシュをしっかり成長投資に回す議論をフェーズ1と2に分けて進めている。1年目はフェーズ1のキャッシュを生み出す取り組みを進めた。すでに成果は出ており、自己資本比率の大幅改善にもつながった。2年目以降は稼いだキャッシュを本当の成長投資に回していく。銅箔を中心とした機能材料のROIC(投下資本利益率)が高い事業に投入する。もちろんフェーズ1も持続的に行う」

――金属事業は30年度利益を200億円と想定する。

「リサイクル強化により、200億円は出すと以前から言ってきた。これをきっちりやり切った結果、為替が前提諸元の155円より円安で推移したり、金や銀の相場が高止まったりすればキャッシュはさらに大きくなるわけで、それを機能材料に再投資していく。金属事業が三井金属グループの成長になくてはならない存在にするという意味では、WACC(加重平均資本コスト)がギリギリの状態ではいけない。しっかりとキャッシュを稼ぐ体制を築いていく」

――銅箔の投資の考え方。キャリア付き極薄電解銅箔「マイクロシン(MT)」は。

「色々なアプリケーションが出てきて、外部環境の変化のスピードが速い。市場の成長に合わせて我々の生産能力を上げなければ、100%近い現在のシェアを競合に取られて高いROICが維持できなくなる。それが一番まずい。MTの生産能力は現状の月間490万平方㍍から27年度520万、28年度540万、29年度560万平方㍍へと引き上げる計画。ここまでは大型投資しなくても達成できるが、問題はそこからだ。35年にかけ需要はまだ大きくなるとみているが、560万平方㍍より先の増強は建屋から造るなど投資額がかかる。需要が前倒しで大きく伸びる可能性もあり、楽観的、ベース、悲観的のシナリオを常に見ながら投資を議論しないといけない」

――需要拡大のけん引役はメモリか。

「あとは光モジュールが想像以上のスピードで増えている。MTは、かつてはスマートフォン向けしかなかったが、いま増えているのはデータセンター関連を中心としたスマホ以外での需要だ」

――高周波基板用電解銅箔「VSP」は生産能力を月1200トンに引き上げる計画だ。

「当社はハイエンドのゾーンを狙う。HVLP3や2と言われるグレードの製品は中国や台湾にもプレイヤーが多く、ターゲットにしていない。VSPをMTのような強い事業にするには、HVLP4や5で勝ち続けることが必要だ。これは造れるメーカーがほとんどないとみている。1200トンまでは投資を抑えて対応できるが、それ以上に需要が来た時の準備もする。自前だけでなくM&Aも含めて考える」

――銅箔のM&Aはどのような可能性があるか。

「我々をベストオーナーと思ってくれる銅箔メーカーがあれば、そのインフラを改良すればゼロから建屋や設備をそろえるよりも少額投資で増産できるかもしれない。35年を見据えると、30年位にはどのように能力を高めるのか決める必要がある」

――大型投資は一時的にROICを押し下げる。

「だがROICにこだわり過ぎて投資しなければ競合が造り、プライシングの力が落ちる。ROICが高くてもボリュームが増えないと意味がない。あくまで最大のKGIは企業価値にある。スプレッドを重視している」

――銅箔以外の機能材料の動向を。

「排ガス浄化触媒はEV化で需要環境が厳しくなるとみていたのだが、EV普及が少し鈍化しているため収益力はまだ高い。35年くらいまでは維持できるよう引き続き稼ぐ力をつけたい。レアメタル溶液『iconos(イコノス)』は期待している。シーズ型の商品だが、30年度の収益の柱になる『コア10』の事業の一つに入れた。30年度に100億円の利益を目指し、28中計の戦略策定の目玉にしたい」

――イコノスの事業をどう拡大する。

「一つの商品や事業領域だけでなく、イコノスの素材を使ったアプリケーションを増やしていきたい。イコノスは魅力的な機能があり、様々な顧客に価値提供できると思う。機能を上げていくための素材なので、品質管理から商流まで含め、M&Aを行った方が良いケースも出てくるかもしれない」

――金属事業の収益力向上の取り組みを。

「当社は銅、亜鉛、鉛の製錬を手掛けており、合計の金属生産量は国内で最も多い。銅製錬で出る鉛や亜鉛、鉛・亜鉛製錬で出る銅などを、製錬所間で補完しあって回収できる強みがある。この機能は外部の製錬会社にも提供できる。多様な不純物への対応力を上げて難しい原料を処理できるようにすることは顧客にとって価値がある。こうした価値提供により利益を最大化していく」

――ペルーのアタラヤ亜鉛鉱山の投資判断は。

「原料確保という意味より、資源事業としてポテンシャルの高い鉱山だとみている。FS(事業性評価)で、この鉱山が世界的に見て強い競争力があるかをしっかり見極めて判断したい」

――原料確保の観点ではない。

「当社の亜鉛製錬はリサイクル原料比率が約50%ある。金属事業を生かすために赤字でも鉱山を買うということはない。仮に製錬所がなくても稼げる鉱山であればやる」

――近年は事業ポートフォリオ見直しで、シナジーが小さい子会社を売却してきた。見直しの基準は。

「重要なのは、当社がその事業のベストオーナーなのかということ。事業によっては、他社がベストオーナーになるケースも当然ある。事業ポートフォリオに限らず、製品ポートフォリオもしっかり磨いていきたい。いずれにしても事業の価値を上げることが大切。自社で魅力的と思えない事業は、他社からも魅力があるように見られない」

――DXの取り組みは進んでいるか。

「操業と営業活動をベースに、25中計で20億円のコスト削減というターゲットを置いて取り組んでいる。28中計でさらに広げていくイメージだ。地道な取り組みだが、体質強化に役立つ。DXで操業が安定化し、お金をかけずに生産量を上げられれば非常に大きい」

▽池信省爾(いけのぶ・せいじ)氏=1995年熊本大院工学系研究科修了、三井金属入社。15年銅箔事業部生産企画部上尾事業所長、16年金属事業本部企画部長、21年執行役員、23年取締役、24年常務、25年副社長、26年4月より社長。質の高い判断ができるよう、睡眠の質を大事にする。大谷翔平選手の活躍が最近の楽しみ。座右の銘は「千載の一遇は賢智の嘉会なり」。71年2月12日生まれ、山口県出身。

(田島義史、鈴木大詩)





環境に貢献する企業2026

特集・インタビュー

トップ交代人事

書籍・出版物

サービス

産業新聞のサービス