「人手不足や諸コストの上昇など社会的課題が継続する中、建設・製造業ともに低水準で推移するとみられ、26年度の国内鉄鋼需要は前年並みの5000万㌧割れを見込まざるを得ない。25年度の新設住宅着工戸数は法改正の動きで駆け込みが前の年にあったので前年比12・9%減と大きく減り、非住宅も引き続き芳しくない。完成車の生産は0・1%増と横ばい。設備投資の先行指標となる工作機械受注額は3月に前年同月比11カ月連続増とポジティブな指標が一部あるが、中東紛争が需要産業の調達・生産・コスト・物流などに幅広く影響を及ぼし始めている」
「中東影響については、まず生産活動への影響としては、エネルギー、金属原料、資機材、石油精製品などが高騰していることに加え、原料・製品双方の輸送コストも上昇しており、広範なコストアップをもたらしている。また、ナフサなどの不足に起因する塗料・溶剤などの調達難も続いており、生産調整などの二次的なコスト影響も発現している。営業活動については、当社の直接的影響として中東向けの商談が停止し、中東地域に出荷しているシームレス鋼管や薄板などに影響が出ている。間接的影響として、自動車メーカーなど国内需要家の中東向け販売・生産にも影響が出ている。需要家の原燃料・資機材の高騰や調達制約に伴い、住宅需要の後退など需要家の販売・生産活動の低下が鋼材需要へも波及し始めている。すでに直接、間接的影響が表面化しつつある。市場動向への影響を探るため中東市場の構造をみると、域内生産5000万㌧、鋼材輸出1000万㌧、鋼材輸入2200万㌧の見掛け消費6200万㌧で、生産・輸出の主力はイラン、輸入は中国が中心。中東紛争の影響でイランの鋼材生産は大きく縮小し、ホルムズ海峡封鎖によりイランからの輸出は全て停止、域外からの輸入も大幅減と想定しうる。国際市場の需給への影響は、中国から中東への鋼材輸入の減少量とイランから中東域外への鋼材輸出の減少量とのバランスとなる。現実にホルムズ海峡を経由しない輸入拡大や中国材によるイラン半製品の代替の動きも出始めている。中国材の還流懸念は注意深くも冷静に現実を見極めていく必要がある。一方で、原油・ガスの輸入元・諸製品の輸出先として中東に依存度の高いインドの経済・産業に対する影響も大きく懸念される」
――国際鋼材市況を冷やし続ける中国の鉄鋼の生産・輸出の状況をどうみているか。
「中国の2025年の鋼材見掛け消費は前年から7・7%減少し、8億㌧を割ったが、粗鋼生産は9億6000万㌧と4・4%の減少にとどまった。世界各国から通商措置を受けているにも関わらず、鋼材輸出は1億1900万㌧と過去最高となり、結果としてアジアの鋼材市況は4年にわたって低迷した。アジアの市場環境は依然厳しいが、変化の兆しには注意を払うべきと思っている。中国の鋼材輸出は今年に入って減少を続け、5月は1034万㌧と前年同月比2%減、1―5月は4455万㌧と前年同期比8%減少した。粗鋼生産は5月に3%減の8436万㌧と13カ月連続減少、1―5月は4%減り、内需の減少ペースと同水準と少し変わってきている。中国鋼鉄工業協会加盟の重点企業94社はかろうじて利益を確保しているが、非加盟の約2万社の鉄鋼関連企業は4年間、赤字が続いている。EUやインドがさらなる通商措置を取り始め、輸出の拡大が難しくなっている。中国は、ロシアやモンゴル炭の輸入など中国固有事情の存在も忘れてはならないが、足下では山西省の炭鉱爆発事故による大規模な生産停止で中国国内炭が高騰しており、他の原料・資機材・エネルギー価格の高騰と共に重くのしかかり、中国メーカーは従来に比べ強いコストプッシュによる値上げを迫られるのではないか。中長期的には、減少をたどっている内需に見合う生産能力の削減、構造調整は不可避というのは論をまたない」
――2026年度に新中長期経営計画を開始した。厳しい市場の中で収益を改善していく必要があるが、中長期計画および26年度の営業部門の重要テーマは。
「25年度の下期以降、鉄鉱石や原料炭の主原料に加え、アルミ、ニッケル、モリブデン、亜鉛など市況原料の価格が上がり、高止まりしている。為替の円安影響が重なり、調達コストの上昇が続いている。販売価格から全ての調達コストを差し引いた『外部コストマージン』は著しく低下し、足下の収益は構造改革後、最悪の状態にある。とりわけ当社の基幹である本体国内製鉄事業の低収益が課題であり、迅速な回復が急務となっている。まずは上昇し続けている諸コストに対応した価格改善が至上命題である。営業の実力が問われる秋(とき)だ」
「このような急激なコストアップに対して、自助努力に最大限取り組むもののサプライチェーン全体で応分の負担をお願いせざるを得ない状況となっている。店売り・市況分野向けの全ての品種について4月受注分からベース価格の値上げ、H形鋼など一部品種でエキストラ改定も要請している。さらに中東情勢に改善が見られず諸コスト高騰が続いていることから6月以降の受注で追加値上げを打ち出した。薄板などは4月受注からトン1万円、6月受注から追加で5000円引き上げた。各メーカーや流通加工各社が値上げを発表し、市況は上伸しているが、高コスト構造は変わらず、コストプッシュで市況の上昇が続くとみている」
「実績コストをベースに先決めするひも付き需要家との価格交渉は、時期ズレはあるが確実に進める。主原料のみならず、市況原料やエネルギーコスト、労務費、物流費なども対象に協議し、需要家の理解を得てきているが、今回は一段と変動が大きいことから改めて丁寧な説明に努めていく。中東情勢の悪化が続くと、さらなるコスト上昇や鋼材生産に影響しかねない。事態を見極めながら迅速・的確に対処していく」
――戦略投資を実行し、新鋭設備が戦力化していく効果は。
「名古屋製鉄所の次世代熱延ラインが4月1日に熱間試運転を始め、8月から商業生産に入る予定。世界最大の耐荷重の圧延機を備え、圧延制御性と温度制御性を飛躍的に向上させた最新鋭設備であり、自動車業界で求められる厳格化・高度化する仕様ニーズに対応すべく、超ハイテンをはじめとした高級鋼を優れた品質で安定的に生産し、お客様に貢献していく。電磁鋼板については、自動車電動化進展の遅れなどにより駆動用無方向性電磁鋼板(NO)の需要鈍化がみられるが、地球温暖化対策が求められる限り社会的ニーズの基本トレンドは変わらず回復すると考えている。また、方向性電磁鋼板(GO)については、各国でのデータセンターの建設などに伴う、発電・送電関連需要は中長期的に伸びていくことは確実であり、電磁鋼板が当社戦略商品であることは変わらない」
――グループ再編を相次ぎ実行したが、営業面でのシナジーをどう発揮していく。
「前中長期計画で山陽特殊製鋼と黒崎播磨の完全子会社化を進め、日鉄建材と日鉄鋼管の間での鋼管事業再編、メカニカル鋼管3社の統合などグループ会社間の体質強化も実行した。昨年度に日鉄ステンレスを合併し、今年度はステンレスとチタンの両事業部を統合してステンレス・チタン事業部が発足した。両品種の市場の特性を踏まえた国内営業力強化と品種横断での工程・商品技術、品質管理面の業務運営体制を整え、効率化・最適化を追求する。今後もグループ再編を通した体質強化を継続し、メリットを最大化するよう努めていく」
「日鉄物産は連結子会社化以降、各事業部門で商社・流通機能(商流、物流、加工、営業)をグループで最大限活用し、サプライチェーン全体での競争力強化を図る施策を実行してきた。高機能商品の拡販や省力化・短工期化など幅広いソリューションの提案、加工拠点の効率化を進め、グループの中核商社として当社およびグループ各社とのシナジーを追求するとともに流通加工業界の生産性向上を率先していく。日鉄物産のさらなる強化を推進しつつ、流通・加工業界との連携・協力を深めながら、流通・加工業界の構造変化を含めた進化・革新を期待する」
――山特を来年4月に吸収合併することを決めた。
「棒線事業だけでなく、交通産機品事業部が手掛ける自由鍛造やステンレス・チタン棒線も含めて融合した組織・業務運営によってシナジー効果を最大化する。両社それぞれの強みをフル発揮して、今後も成長が見込める半導体やエネルギー・航空宇宙など戦略分野におけるプレゼンスを高め、特殊鋼棒線分野で国内外の競合他社を圧倒する地位を確立する。同時に、両社のリソースを統合し、グローバルでの成長戦略を推進していく」
――営業部門の業務を刷新し、国内営業体制を見直した狙いは。
「営業・生産工程管理・出荷後のフォローに至るまで全業務を対象に業務の刷新と効率化を進め、生産性の向上とサービス品質の高度化の両立を図っていく。営業効率や生産性を一層高めるため、国内品種営業に関わる指揮命令系統を各品種営業部に一元化した。各支店を4月に支社に改称し、各品種事業部の方針に基づく品種・営業部横断的営業施策やグループ会社との営業連携を強化していく。これにより個別品種の一貫した戦略推進を図るとともに、日本製鉄グループの総合力を効果的に発揮していく」
――重要課題のGXスチールの普及について。
「当社は『カーボンニュートラルビジョン2050』の実現に向けて、革新技術の開発と実装化、GXスチールの普及と標準化の取組みを鋭意進めているが、営業部門としては当社のGXスチール『NSカーボレックスニュートラル』の正しい普及が最重要課題である。25年度に導入された“CEV補助金に対するGX鋼材使用加算措置”が26年度も継続適用される。また、26年度は“公共工事におけるGXスチールの積極的活用方策の検討方針”に基づく試行工事での採用も進められる。営業としては需要家や施主・施工者に対する理解活動に傾注しているが、これらの政府の“環境価値(CO2削減)を経済価値化するための支援”の趣旨を忘れてはならない。安易な普及・採用拡大に走るのではなく、大規模なプロセス転換投資の回収を図るためのCO2削減価値を明示して市場性の創造に努めなければならない」
――近年急増している輸入鋼材の動向、対抗策は。
「政府は昨年の7月に中国・台湾製のニッケル系ステンレス冷延鋼板、8月に中国・韓国製の溶融亜鉛めっき鋼板のAD調査を開始し、本年6月には中国・韓国・台湾製の熱延鋼板類と冷延鋼板類のAD調査を開始した。ニッケル系ステンレスは調査対象の中国・台湾からの輸入は昨年10月以降減少しているものの、調査非対象のインドネシアやベトナム等から安価な製品の入着が着実に増加している。溶融亜鉛めっき鋼板は調査対象の韓国と中国からの輸入は25年中に大幅な駆け込みがみられ、今年1月以降は減少しているが、警戒を緩めることはできない。韓国・中国・台湾産の熱延及び冷延に対するAD調査については、昨年のNi系ステンレス冷延鋼板や溶融亜鉛めっき同様、WTOルールに基づき日本政府が不公正輸入の是正に向けて調査・検討を進められるが、本調査に適切に対応していくとともに、駆け込み輸入や迂回行為の発生有無を含めて輸入動向を注視していく。また、日本鉄鋼業としてはこれら産品に留まらず、不公正輸入に対するモニタリングを継続強化し、更なる輸入通商対策について必要の都度日本政府と相談していく」(植木 美知也)




















