商社の経営戦略 構造変化を見据えて/三菱商事・今村功常務執行役員マテリアルソリューショングループCEO/事業投資「実行」を重視/米国、鉄鋼領域で事業開発追求

商社の経営戦略 構造変化を見据えて/三菱商事・今村功常務執行役員マテリアルソリューショングループCEO/事業投資「実行」を重視/米国、鉄鋼領域で事業開発追求
――2025年度のマテリアルソリューショングループの純利益は前年比61%減の263億円と厳しい結果となった。

「化学の事業で多額の減損処理を行ったことが大きい。特にサウジアラビアでの石油化学事業は以前から不調だったが、中東情勢の影響を受け、先行き不透明な状況が続いたこともあり、減損処理を決めた。258億円の減損を計上し、利益が半減したが、一過性要因を除くと530億円程度となり、それでも24年度(683億円)を下回る結果となった。鉄鋼製品は中国の過剰生産・過剰輸出が続き、市況が低位にとどまり、内需もさえず、厳しい1年だったが、メタルワンは若干の減益ながらコスト管理の強化など収益力を高める取り組みによって一定の水準を確保できた。26年度は外部環境によい要素がみあたらない。グループの純利益は500億円を予想しているが、中東影響は織り込んでいない。先行きは読みにくく、状況を注視し適切に対応していく」

――中東情勢の具体的な影響は。

「鉄鋼はあまり受けていないが、化学は3―5月に主要製品の単価が上がり、スポット的な取引で利益を上げたプラス影響もあった。今は市況が下がり始め、在庫で打たれないよう、うまくしのいでいきたい。早期の正常化を望むが、イランと周辺国の製油所などがどこまで損傷しているか。イランの化学品は国際市況に与える影響が大きく、戦闘が終結しても市場への影響が残る可能性がある」

――26年度の重点テーマは何か。鉄鋼と化学など他部門との融合、シナジー発揮、戦略投資の進捗は。

「鉄鋼製品、化学品、炭素材、建設資材などとバラエティに富んだ素材を取り扱うグループであり、組織改編でスタートした24年度当初は各部門間で『言語』が異なり、コミュニケーションに苦労する状態だったが、グループPMIや横断的な取り組みがいくつか進みつつある。26年度は事業投資の実行が最大のテーマの一つだ。昨年もいくつか投資案件を検討したが、インフレなどで投資額が過大となり、経済性に合わず、骨太な戦略に基づく投資案件も上がってこなかった。三菱商事として取り組む意義や、ロジックを組み立てる案件組成が求められるが、グループの実力値は上がっており、いよいよ一定の規模感のある投資を実行するステージに移る。鉄鋼製品含めいくつか案件はあり、投資額やパートナーとの目線を合わせ、間合いを計りながら決定に向けてこの7―9月が勝負となる。鉄鋼は海外各国で地産地消化が進み、特に高級鋼需要の成長が続く米国で大型の投資を探索している。案件は上がってきており、ぜひ実行したい」

――米国ではUSスチールへの対応が重要になる。

「三菱商事としては米国の天然ガス開発会社の買収を決め、クロージングはまだだが大きな投資を行うのでUSSに貢献できる取り組みをいろいろと広げていきたい。メタルワンは加工を強化するのか、需要家により近いところへ展開していくのか、大きなチャレンジとなるが川下展開を図り、サービス機能を内製化していきたい。鉄鋼の領域で事業開発を追求し、その中で化学品とのシナジーやセメントとのシナジーを副次的に狙っていく。最初から他部門との事業の融合を狙うと案件がパワフルではなくなり、寄せ合うような案件組成になる。まずは鉄鋼のビジネスをしっかり構築し、その上で他の部門とのシナジーを得られれば高い収益を生み出せる」

――環境規制の変化やエネルギー問題の観点などから欧州市場が再び注目されている。

「数年前まではカーボンニュートラルの先進地域でインテリジェンスを得る場だったが、今は実業が重要になっている。日本同様、エネルギーを域外から輸入しており、コストが高く、地場の産業の競争力が低下している。一方で人口や経済の規模が大きく、多様な商品を輸入する地域でもある。メタルワンは24年に変圧器コア製造のイタリアのラゴア社を買収し、これまでの点と線のビジネスから実業によって欧州マーケットを面で捉え始めている。欧州での成功体験を米国や他の地域にヨコ展開できる可能性を秘めており、しっかりと取り組んでいきたい。コストや制度的柔軟性の観点から欧州の製造業が東部に移る動きをみせている。輸入に依存せず、域内で製造する機運が高まり、ウクライナ紛争の復興需要もいずれ出てくる。商機を捉えていきたい」

――商機を見込む他の地域、インドやアフリカでの取り組みは。

「インドはメタルワンが、需要が伸びる自動車向けと電磁鋼板の加工を2本柱にマーケットに入り、しっかりと取り組んでいる。建機向けの厚板加工拠点やファスナー製品を扱うナイファスト含め、自動車や二輪車、建機、建材など伸びゆく需要を捕捉する。三菱商事として他の部門含め優良な現地パートナーを多く持つことは強みであり、現地パートナーの広いネットワークを活用してマーケットを開拓することを考えていく」

「アフリカは鉄鋼に限らず化学品もこれから需要が増えていく。鉄鋼は一定の数量を輸出しているが、マーケットに入り、加工など陣地を広げていくことを考えていく。三菱商事のナイロビ支店長が鉄鋼出身であり、踏み込んだ取り組みを模索している。化学品は住宅資材として床材や壁紙、窓枠、パイプなどいろいろなところに使われる。送水管や米国でデータセンター向けに増えている電設管の需要はアフリカでも増えていくだろう。鉄鋼と化学品はパイプが共通項であり、一つの切り口としてシナジーを期待したい」

――他の本部の事業方針は。

「機能素材本部は東洋紡との合弁の東洋エムシーは23年度開始から最初の3年は経営基盤の整備ということで眠っていた価値を掘り起こしてきたが、今年度から東洋エムシーにない価値を外部から取り入れる。海外での拡販や技術の購入、事業の買収など成長の種を獲得する3年間であり、投資案件の検討を進めている。資源素材本部は、川中の力を使って上流のポジションを取りにいく。汎用素材は化学品のトレーディングが中心で外部環境が悪い時でも安定して収益を確保しているが、さらに高度化、効率化を進めていく」

――金属や化学品など多様な素材産業に機能を提供するビヨンドマテアリアルズ社の取り組みについて、東洋エムシーは成果の一つだが、他の案件は。

「ロボティクスに興味のある企業から要望をいただき、テーマに沿ってコンサルテーションしている。自動車に強い会社が航空やロボティクスに事業を広げようとしているが、求められる素材について頭を悩ませており、ビヨンドマテアリアルズが素材各社を束ねて場を作り、最適な答えを提供していく。他にはない機能を発揮し、素材メーカーにも貢献していきたい」

――生成AIの活用を全社で進めている。

「会社として昨年4月にAIソリューションタスクフォースを設置し、半導体事業部など複数のグループから人を出し、AIリテラシーを上げて実装を進めている。マテリアルソリューショングループでは昨年11月に仕事改革タスクフォースを立ち上げ、トレーディングを含む幾つかの業務でAIを活用して効率化を推進している。また在庫・市況などより精度の高い管理を目指す業務の高度化にも取り組んでおり、将来的にはずいぶんと違う会社になるのではと期待している」

――中期計画最終の27年度にグループの純利益800億円を目指している。メタルワンへの期待も高い。

「目標額は変えていない。メタルワンはグループの最大の事業会社であり、大きく成長してほしい。そのためにも投資を実行し、ポートフォリオの入れ替えを進めていく。既存の事業で市場が伸びない領域はよいパートナーと連携しながら効率化を進める。一方で伸びる分野や海外で投資を実行していく。中国の影響を受けにくいマーケットや分野を捉え、地産地消型のビジネスモデルや領域でポジションをとりたいと考えている」

――10―15年後、国内需要が大きく減っている可能性がある。中長期的な観点で事業の維持・成長をいかに図っていくか。

「内需は減っていくのだろうが、減り方が小さいあるいは伸びていく分野など波及性はあるはず。土木インフラは国土強靭化、防災・減災の需要が続き、AIインフラでいえばデータセンターや電力の需要は維持あるいは拡大する方向だ。経済安全保障の観点から政府は造船の建造能力拡大に踏み出し、製油所や石油化学工場などを自国に持つ必要が議論されつつある。課題が共通する商社の間でどのように連携していくか。将来をにらみ、国内は収益を生む体制に変え、海外の成長基盤を強くしていく。当社含めすでに各社がそうした取り組みに舵を切っている」(植木 美知也)



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