2026年4月1日

創刊90周年記念対談/日本鉄鋼業の針路/(1)/次代につなぐ基盤づくりの時機/日本鉄鋼連盟 今井正会長(日本製鉄社長兼COO)/産業新聞社 谷藤真澄社長/内需維持への努力必要

トランプ関税はじめ海外で広がる保護貿易主義、中国経済の長引く低迷、中東の混乱、日本国内の人口減や輸出不振による需要の減少、急増する輸入材など日本鉄鋼業を取り巻く環境はかつてなく厳しく、全国粗鋼生産は半世紀余り前の水準に落ち込んでいる。カーボンニュートラルへの対応や人材の確保など困難な課題が押し寄せ、鉄鋼業界が歴史的転換期を迎える今、産業新聞創刊90周年にあたり、日本鉄鋼連盟の今井正会長(日本製鉄社長兼COO)との記念対談を行った。国際市場を揺るがす中国鉄鋼業の高生産・高輸出の行方、激変する国内外の鉄鋼市場の見通しと日本がとるべき対応策、日本鉄鋼業が持続し、日本経済に貢献し続けるための指針を聞いた。

(聞き手=産業新聞社代表取締役社長 谷藤真澄)



谷藤「産業新聞社は、本年2月26日に創刊90周年を迎えることができた。ひとえに鉄鋼・非鉄業界の皆さまのご支援のたまものであり、特に日本製鉄をはじめとする鉄鋼メーカーの方々には長年にわたってご指導をいただき、心より感謝している。この場をお借りして厚く御礼を申し上げる。今井会長は1963年5月22日生まれ、私は63年2月22日生まれで、ともに卯年。今井会長は93年から95年にMITに留学され、私は96年から2001年にニューヨーク支局長として米国に駐在しており、同じ時代を米国東部で過ごした共通点もある。本日は日本鉄鋼業の持続的成長に向けての課題と展望について幅広く語っていただきたい」

「日刊産業新聞は2010年の長期連載『構造改革に挑む』で10年後を見据え、『かつての8000万トンから6000万トンに縮小した国内鉄鋼需要が、少子化や製造業の海外シフトなどによって、さらに5000万トンまで落ち込み、1億2000万トンを超えた全国粗鋼生産が8000万トン、さらに7000万トンに縮小する可能性がある』と指摘した。警鐘の意味を込めた内容としたが、実際に内需は24年度以降、5000万トンを下回る事態となっている。需要構造の変化をどう受け止めているのか」

今井「日本の国内鉄鋼需要はピークの90年度の9000万トンから2010年度に6000万トンに減り、足元は5000万トンを割っている。特にこの5年間の落ち込みが大きい。建設向けの需要は90年度の4300万トンから24年度に1600万トンと大幅に縮小した。働き方改革含め人手不足や資材コストの上昇が影響し、経済性の課題から建設物件の先送りや休止になるケースが増えている。建設コストの上昇について言えば、複数年度にわたる大型再開発プロジェクトは、デフレが長い間続く中でエスカレーション(資材高を考慮した予備費)を考慮しなくてもプランニングできていた。この5年は人件費が上がり、資材も鋼材含め再生産可能な価格に改定され、エスカレーションという変化が生じた。ロングレンジの大型物件は数年掛かりであり、経済性の見通しが変わることで物件単位で案件先送りとなっている。ただ、建築・土木について変化点のピークは過ぎつつあり、一定のインフレを前提にした計画が徐々に定着しつつある。総選挙を踏まえた高市政権の経済政策からも読み取れるように、国土強靭化やインフラの老朽化に対応した更新需要など一定のコストをかけるべき部分が建築・土木分野にはあり、国の方針にもなっているので建築・土木分野の需要には底堅さもでてくるのではないかとみている」

「製造業については2000年以降、海外への生産移転が大きく進んだ。95年にWTO(世界貿易機関)が設立され、中国が自由貿易体制に組み込まれていったが、いわゆる新自由主義、自由貿易体制の下で適地生産化が進み、中国はじめコストの低いところでモノを造る動きが顕在化した。日本も製造業が中国や東南アジアなど海外に工場を移転していったことで鉄鋼内需は大幅に減少した。例えば日本の完成車生産は90年の1300万台から24年に850万台に、そのうち輸出は90年の600万台から24年に400万台に減っており、鉄鋼製品としての間接輸出は減少している。この1、2年を見ると、自由貿易体制が経済安全保障という概念に塗り替えられ、トランプ政権に見られるように関税政策含めた通商政策が外交手段の一つになってしまっている。米中対立がバックグラウンドにあり、自由貿易の概念が崩れる中で日本は米国との関係の重要性が増している。日本にとって米国は大きな貿易相手国だが、日本の対米輸出がどれだけ続くかどうか懸念される。トランプ関税は変化が激しく見通しにくい面があるが、基本的に米国政府が問題にしているのは貿易の不均衡であり、それを是正する圧力はいろいろな方法でかかり続けるとすれば、日本の自動車生産がさらに米国にシフトする動きは出てくるはず。これまでの経緯と将来を客観的に考えれば、国内製造業向けの鉄鋼需要はさらに減少することを前提とせざるを得ないと考えている」

谷藤「全国粗鋼生産はピークの90年度の1億2000万トンから19年度に9000万トン台に減り、22年度以降は8000万トン台でなお減り続けている。転炉鋼は9000万トンから6000万トン、電炉鋼は3000万トンから2000万トンとそれぞれ3分の2に縮んだ。鉄鋼大手は高炉含め設備集約に踏み切り、大きな痛みを伴う構造改革を実行してきた。この10年ほどの間に鉄鋼メーカーは構造改革によって、どのような成果を上げてきたか」

今井「日本の需要は90年にピークアウトしたが、その30年後の2020年に中国の需要がピークアウトし、その結果、中国による安価な鋼材の輸出が世界の鉄鋼貿易量の半分以上を占めるまでに増えている。この構図の中で日本の3000万トン規模の鋼材輸出を将来にわたって維持するのは難しいと言わざるを得ない。輸出が減るとなると、今の8000万トン強の粗鋼生産はどうなるか。これまで需要が減少する中において各社が個社の判断において生産体制の構造改革に取り組み、過剰な能力が削減された。結果として需給を引き締め、ひも付き分野を中心に鋼材価格を改善、マージンを確保し、再生産可能な水準に戻すことができた。振り返るとこれは単なる縮小均衡ではなく、『日本の鉄鋼産業を次の時代につなぐための基盤づくり』につながったと受け止めている。しかしながら、今後、国内需要と輸出が増えることはないとすれば、粗鋼生産は8000万トン台からさらに減ると考えざるを得ない。10年、15年のスパンで考えると、現状の5000万トン前後の内需は4000万トン台前半に減ることはあり得ると思うし、東南アジア含め海外が自国生産化していくことを踏まえると3000万トンの輸出が2000万トンに減ってもおかしくはない。国内4000万トン、輸出2000万トンで輸出比率は30%台、粗鋼生産6000万トン台という姿はあり得るシナリオと考えておかなければならない。鉄鋼メーカーは需要減少の中で余剰設備・能力対策として最適生産体制の再構築を志向してきたが、今後各社が稼働率確保や物流・調達の最適化、販売網の再設計などの取り組みを進めることに加え、場合によってはメーカー間の連携の在り方も含めた産業構造の見直しが現実的な選択肢として浮上してくると思う。これと同時に、国内需要や輸出量を維持する努力も続けなければいけない。なにもしなければ粗鋼6000万トン台はあり得るということであり、そうならないよう取り組んでいくことが鉄鋼業界の重要な課題となる」











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