2026年4月21日
業界団体トップに聞く/特殊鋼倶楽部/福田和久会長/(山陽特殊製鋼社長)/通商問題への対策重要/高機能鋼材、新需要分野を開拓
――特殊鋼および特殊鋼業界の魅力と役割をどのように考えるか。
「特殊鋼は先端技術の融合体であり、鉄鋼材料の中で独特の高い機能を有している。自動車をはじめとする輸送機器や産業機械、建設機械など幅広い産業分野の中核部品材料として採用され、家庭ではキッチンや食器などでステンレス鋼が広く使われている。国民生活と密接な関わり合いを持ち、特殊鋼産業が人々の生活を支えていると言っても過言ではない。特殊鋼を取り巻く環境は至近10年で変化しており、自動車の電動化をはじめ半導体や航空宇宙、エネルギーやフィジカルAI、カーボンニュートラル対応など高付加価値製品の需要が着実に伸びており、今後さらに進展すると考えている」
――国内外における足元の市場状況は。
「国内経済は緩やかに回復してきているものの、力強さに欠く。特殊鋼業界においても国内市場の縮小や構造変化が確実に起きているし、各種コストも上昇している。中国による膨大な鉄鋼製品供給も収まる気配が見えず、海外メーカーとの競争が激化するなど厳しい状況が続いている。一方で、各国による保護主義の影響が懸念される。米国トランプ関税をはじめ、欧州ではCBAM(炭素国境調整措置)やセーフガードが発令。メキシコやインドでは中国製鋼材への対策を強化しつつある。ここにきて米国とイスラエルによるイランへの攻撃で中東情勢が悪化し、地政学リスクの顕在化によって不透明感が増している」
――26年度のマーケット見通しを。
「各国の保護主義に伴う現調化と輸入材の影響がますます大きくなるだろう。また市場縮小や人手不足、製造コスト増大など日本国内の構造的問題をはじめ中国の過剰能力問題、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東情勢悪化も長引く可能性があり、不安定で厳しい環境が続くとみている。これらは一過性の現象ではなく、ビジネス環境を抜本的に変えるものと認識している。特殊鋼倶楽部は企業の垣根を越えたオールジャパンのサプライチェーン(SC)の団体として、SCの総力をあげて課題に取り組む必要がある」
――通商問題への対応も重要課題になる。
「現時点で特殊鋼の輸入量は限定的にみえるが、増加傾向が続いている。国益を守り抜く観点から、従来の枠組みや発想にとらわれない通商政策を真剣に検討すべき時期に来ている。経済産業省と財務省は25年7月に中国、台湾製ニッケル系ステンレス冷延鋼帯と鋼板輸入に対するアンチダンピング(AD、不当廉売)課税調査開始しており、日本鉄鋼連盟やステンレス協会と連携して適切に対応している。また不当廉売関税に係る迂回防止制度が創設され、4月から施行した。不公正な輸入によって国内産業への損害が懸念される場合は他団体と連携し、政府に対して速やかに通商措置の発動を求めるなど適切な対応を講じていきたい」
――高炉の電炉化など主原料・鉄スクラップの確保もテーマだ。
「鉄スクラップは高炉、特殊鋼電炉を含めて鉄鋼原材料としての重要性が一段と高まってくる。特殊鋼の製造には高品位なスクラップが必要で、高炉の電炉化による国内の需給変化、東アジアを含めた旺盛な海外需要もあり、いかに確保していくかが大きな課題になる。鉄連と普通鋼電炉工業会、日本鉄リサイクル工業会と当倶楽部の鉄鋼4団体が鉄スクラップの利活用拡大を進める活動を推進している。高品位鉄スクラップの創製も含めて資源自立経済システムを持続するべく、経済産業省が設立した『サーキュラーパートナーズ』における鉄鋼ワーキンググループを通じて必要な取り組みを進める。日本では年間3000万トン程度の鉄スクラップが発生し、うち700万トン程度が輸出されており、経済安全保障の観点から、どこまで日本に押しとどめるかを議論すべきだし、高品位鉄スクラップについては『スクラップ』の名称を『原料』に変え、大切に取り扱わなければいけない」
――電力はどうか。
「IT社会の進展で電力需要が増えており、安定供給は必須である。政府には原子力政策を確実に実行してもらいたいし、再生可能エネルギーの安価化も求める。特殊鋼をはじめとする鉄鋼業のエネルギー問題は電力の観点だけでなく、エネルギーの安定供給や経済成長、二酸化炭素排出削減を同時に実現するGXの視点に基づいて、経済社会システム全体を視野に入れた対策を進めることが重要である」
――物流については。
「ドライバー不足とともに人件費やガソリン価格が上昇し、物流コストの負担が増しており、SC全体では大きな問題だ。物流については鉄連が特殊鋼業界の意見も反映させながら自主行動計画やガイドラインを策定した。鉄連に協力しながら、特殊鋼を含めた鉄鋼業のSC確立を図る」
――人材の確保も重要課題になる。
「最近は個社ごとにテレビCMを流しているが、人材を確保するには産業としての魅力を伝える必要がある。特殊鋼産業の発展には技術系の学生がとくに求められ、日本鉄鋼協会と協力して『企業経営幹部による大学特別講義』を実施している。特殊鋼の面白さを広く大学生、とくに技術系の大学生に伝える活動を続けていきたい」
――団体活動は。
「特殊鋼の普及に向けた活動を行っている。各種課題について鉄鋼関係団体と一体となって政府に要望しており、カーボンニュートラルの推進やエネルギー課題への対策、成長領域の市場調査や通商問題の的確な対応など活動内容を充実させていきたい。人材確保にも通じるが工場見学会や、学生向けや企業人材向けで講演を行い、広報活動や統計作成など基礎的・基盤的な事業も着実に実施している。製販一体の団体という特徴を最大限に生かしながら、メーカー会員と流通会員が連携・協力して、日本の特殊鋼の競争力強化に取り組むことが必要になる」
――26年度で力を注ぐ施策を。
「貿易保険の活用を推進する。貿易保険は日本企業が行う輸出・輸入投資融資において、海外の取引先の破産や戦争、送金不能などのリスクによる代金回収不能や輸出不能といった損失をカバーするもの。日本貿易保険が提供する政府系保険であり、民間保険では引き受けにくい海外取引のリスクから企業を守る重要な役割を担う。特殊鋼は当倶楽部が窓口になり、商社など13社が加入している。25年は1万9602件・3412億円の輸出契約が貿易保険の対象として申し込まれ、6451万円が保険金として支払われている。ウクライナやイランなどでの紛争の影響もあり、通商貿易上のリスク拡大も想定され、貿易保険の役割は重要になる」
――中・長期的なマーケットの見通しは。
「高市政権が掲げる官民投資17分野では優先的に支援する61の製品・技術がリストアップされた。この中で戦略分野としてマテリアル(高機能鋼材)が掲げられている。永久磁石や革新的金属部素材、低炭素金属部素材などはまさに特殊鋼であり、政府としてその重要性を認識してもらっている。特殊鋼を利用しなければ実現しない戦略分野、あるいは特殊鋼が貢献できる戦略分野として航空・宇宙や海洋、造船や資源・エネルギー、安全保障・GX、防災・国土強靭化、港湾ロジスティックスがリストアップされている。これらの製品を開発・生産するため、ユーザー企業と積極的に連携し、特殊鋼を活用して採用してもらう新分野として開拓することが大事。特殊鋼に係る技術力は自動車をはじめとするユーザー業界の要求に応えるために切磋琢磨してきたものであるとともに、産学が連携・協力して技術力・研究力を築き上げてきたものと考えている。日本の特殊鋼業界は世界一の技術水準と思うが、新分野の開拓にはグローバルなマーケットにおいて技術開発競争に打ち勝たなければならない。自動車の電動化、産業ロボットや人型ロボットの進展に向けて新たな技術革新が求められる中、日本の特殊鋼が持つ高い信頼性や技術優位性はさらに高まると確信している」
――特殊鋼業界に入る方にメッセージを。
「特殊鋼はとても重要で戦略的な素材ではあるが、縁の下の力持ち的存在で少し地味である。ただ発展性は大きい。航空宇宙やエネルギー、ロボットやAI関連を含めてすべての分野で特殊鋼が必要であり、その点も訴えたい。日本の強みである『すり合わせの技術』はまだ残っている。その代表が鉄鋼業界、とりわけ特殊鋼業界だと思う。特殊鋼業界の日本の産業界における位置付けは高く、これからも必ず残っていくし、日本の産業を下支えするために踏ん張らなければいけない産業である」(濱坂浩司)
「特殊鋼は先端技術の融合体であり、鉄鋼材料の中で独特の高い機能を有している。自動車をはじめとする輸送機器や産業機械、建設機械など幅広い産業分野の中核部品材料として採用され、家庭ではキッチンや食器などでステンレス鋼が広く使われている。国民生活と密接な関わり合いを持ち、特殊鋼産業が人々の生活を支えていると言っても過言ではない。特殊鋼を取り巻く環境は至近10年で変化しており、自動車の電動化をはじめ半導体や航空宇宙、エネルギーやフィジカルAI、カーボンニュートラル対応など高付加価値製品の需要が着実に伸びており、今後さらに進展すると考えている」
――国内外における足元の市場状況は。
「国内経済は緩やかに回復してきているものの、力強さに欠く。特殊鋼業界においても国内市場の縮小や構造変化が確実に起きているし、各種コストも上昇している。中国による膨大な鉄鋼製品供給も収まる気配が見えず、海外メーカーとの競争が激化するなど厳しい状況が続いている。一方で、各国による保護主義の影響が懸念される。米国トランプ関税をはじめ、欧州ではCBAM(炭素国境調整措置)やセーフガードが発令。メキシコやインドでは中国製鋼材への対策を強化しつつある。ここにきて米国とイスラエルによるイランへの攻撃で中東情勢が悪化し、地政学リスクの顕在化によって不透明感が増している」
――26年度のマーケット見通しを。
「各国の保護主義に伴う現調化と輸入材の影響がますます大きくなるだろう。また市場縮小や人手不足、製造コスト増大など日本国内の構造的問題をはじめ中国の過剰能力問題、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東情勢悪化も長引く可能性があり、不安定で厳しい環境が続くとみている。これらは一過性の現象ではなく、ビジネス環境を抜本的に変えるものと認識している。特殊鋼倶楽部は企業の垣根を越えたオールジャパンのサプライチェーン(SC)の団体として、SCの総力をあげて課題に取り組む必要がある」
――通商問題への対応も重要課題になる。「現時点で特殊鋼の輸入量は限定的にみえるが、増加傾向が続いている。国益を守り抜く観点から、従来の枠組みや発想にとらわれない通商政策を真剣に検討すべき時期に来ている。経済産業省と財務省は25年7月に中国、台湾製ニッケル系ステンレス冷延鋼帯と鋼板輸入に対するアンチダンピング(AD、不当廉売)課税調査開始しており、日本鉄鋼連盟やステンレス協会と連携して適切に対応している。また不当廉売関税に係る迂回防止制度が創設され、4月から施行した。不公正な輸入によって国内産業への損害が懸念される場合は他団体と連携し、政府に対して速やかに通商措置の発動を求めるなど適切な対応を講じていきたい」
――高炉の電炉化など主原料・鉄スクラップの確保もテーマだ。
「鉄スクラップは高炉、特殊鋼電炉を含めて鉄鋼原材料としての重要性が一段と高まってくる。特殊鋼の製造には高品位なスクラップが必要で、高炉の電炉化による国内の需給変化、東アジアを含めた旺盛な海外需要もあり、いかに確保していくかが大きな課題になる。鉄連と普通鋼電炉工業会、日本鉄リサイクル工業会と当倶楽部の鉄鋼4団体が鉄スクラップの利活用拡大を進める活動を推進している。高品位鉄スクラップの創製も含めて資源自立経済システムを持続するべく、経済産業省が設立した『サーキュラーパートナーズ』における鉄鋼ワーキンググループを通じて必要な取り組みを進める。日本では年間3000万トン程度の鉄スクラップが発生し、うち700万トン程度が輸出されており、経済安全保障の観点から、どこまで日本に押しとどめるかを議論すべきだし、高品位鉄スクラップについては『スクラップ』の名称を『原料』に変え、大切に取り扱わなければいけない」
――電力はどうか。
「IT社会の進展で電力需要が増えており、安定供給は必須である。政府には原子力政策を確実に実行してもらいたいし、再生可能エネルギーの安価化も求める。特殊鋼をはじめとする鉄鋼業のエネルギー問題は電力の観点だけでなく、エネルギーの安定供給や経済成長、二酸化炭素排出削減を同時に実現するGXの視点に基づいて、経済社会システム全体を視野に入れた対策を進めることが重要である」
――物流については。
「ドライバー不足とともに人件費やガソリン価格が上昇し、物流コストの負担が増しており、SC全体では大きな問題だ。物流については鉄連が特殊鋼業界の意見も反映させながら自主行動計画やガイドラインを策定した。鉄連に協力しながら、特殊鋼を含めた鉄鋼業のSC確立を図る」
――人材の確保も重要課題になる。
「最近は個社ごとにテレビCMを流しているが、人材を確保するには産業としての魅力を伝える必要がある。特殊鋼産業の発展には技術系の学生がとくに求められ、日本鉄鋼協会と協力して『企業経営幹部による大学特別講義』を実施している。特殊鋼の面白さを広く大学生、とくに技術系の大学生に伝える活動を続けていきたい」
――団体活動は。「特殊鋼の普及に向けた活動を行っている。各種課題について鉄鋼関係団体と一体となって政府に要望しており、カーボンニュートラルの推進やエネルギー課題への対策、成長領域の市場調査や通商問題の的確な対応など活動内容を充実させていきたい。人材確保にも通じるが工場見学会や、学生向けや企業人材向けで講演を行い、広報活動や統計作成など基礎的・基盤的な事業も着実に実施している。製販一体の団体という特徴を最大限に生かしながら、メーカー会員と流通会員が連携・協力して、日本の特殊鋼の競争力強化に取り組むことが必要になる」
――26年度で力を注ぐ施策を。
「貿易保険の活用を推進する。貿易保険は日本企業が行う輸出・輸入投資融資において、海外の取引先の破産や戦争、送金不能などのリスクによる代金回収不能や輸出不能といった損失をカバーするもの。日本貿易保険が提供する政府系保険であり、民間保険では引き受けにくい海外取引のリスクから企業を守る重要な役割を担う。特殊鋼は当倶楽部が窓口になり、商社など13社が加入している。25年は1万9602件・3412億円の輸出契約が貿易保険の対象として申し込まれ、6451万円が保険金として支払われている。ウクライナやイランなどでの紛争の影響もあり、通商貿易上のリスク拡大も想定され、貿易保険の役割は重要になる」
――中・長期的なマーケットの見通しは。
「高市政権が掲げる官民投資17分野では優先的に支援する61の製品・技術がリストアップされた。この中で戦略分野としてマテリアル(高機能鋼材)が掲げられている。永久磁石や革新的金属部素材、低炭素金属部素材などはまさに特殊鋼であり、政府としてその重要性を認識してもらっている。特殊鋼を利用しなければ実現しない戦略分野、あるいは特殊鋼が貢献できる戦略分野として航空・宇宙や海洋、造船や資源・エネルギー、安全保障・GX、防災・国土強靭化、港湾ロジスティックスがリストアップされている。これらの製品を開発・生産するため、ユーザー企業と積極的に連携し、特殊鋼を活用して採用してもらう新分野として開拓することが大事。特殊鋼に係る技術力は自動車をはじめとするユーザー業界の要求に応えるために切磋琢磨してきたものであるとともに、産学が連携・協力して技術力・研究力を築き上げてきたものと考えている。日本の特殊鋼業界は世界一の技術水準と思うが、新分野の開拓にはグローバルなマーケットにおいて技術開発競争に打ち勝たなければならない。自動車の電動化、産業ロボットや人型ロボットの進展に向けて新たな技術革新が求められる中、日本の特殊鋼が持つ高い信頼性や技術優位性はさらに高まると確信している」
――特殊鋼業界に入る方にメッセージを。
「特殊鋼はとても重要で戦略的な素材ではあるが、縁の下の力持ち的存在で少し地味である。ただ発展性は大きい。航空宇宙やエネルギー、ロボットやAI関連を含めてすべての分野で特殊鋼が必要であり、その点も訴えたい。日本の強みである『すり合わせの技術』はまだ残っている。その代表が鉄鋼業界、とりわけ特殊鋼業界だと思う。特殊鋼業界の日本の産業界における位置付けは高く、これからも必ず残っていくし、日本の産業を下支えするために踏ん張らなければいけない産業である」(濱坂浩司)
















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