2026年4月22日
業界団体トップに聞く/日本鋳鍛鋼会/松尾宗義会長/(大同特殊鋼常務執行役員)/DX活用し供給体制強化/製造工程の高度化へ人材投資
――鋳鍛鋼および鋳鍛鋼業界の魅力と役割をどのように考えるか。
「鋳鍛鋼は発電設備や船舶、鉄道や自動車、建設・鉱山機械、圧延設備や産業炉などエネルギーや運輸、社会インフラや製造装置の基幹部材を担う『縁の下の力持ち』である。高温・高圧・高荷重・腐食環境といった過酷な条件で機能する部材の品質・信頼性は顧客の安全確保や安定供給、高効率運転にも直結する。国内における高信頼材の供給体制と検査・認証の蓄積はサプライチェーン強靭化の観点からも、日本の長期的な安全保障や経済安全性を支える重要な基盤であると考えている。また長年培った材料設計から鋳造・鍛造、熱処理・非破壊検査といった総合的な技術力は世界にも高く評価されている。従業員にとっては大規模な社会インフラに『命を吹き込む』素材技術に携われることがこの産業の大きな魅力だと感じる」
――至近10で市場環境は大きく変化した。
「この10年はエネルギー転換や設備投資サイクルの変化、地政学リスクや物流不安、環境規制の強化など複数の構造変化が重なり、需要の質が大きく変化してきた。特に電動化の進展は国内主要産業の自動車生産にも大きな影響を与えている。足元は鋳鋼分野で厳しい環境が続く一方、鍛鋼分野は前年度並みの水準で推移しており、発電用機器向け需要の回復が業界全体の下支えとなっている。国内のマクロ環境を見ると、2026年1月の鉱工業生産が前月比2・2%増と持ち直し、出荷改善・在庫率低下など前向きな動きもみられる。企業マインドは慎重化の兆しがあるものの、賃上げや各種政策効果が緩やかな景気回復を支えている」
――26年度のマーケット環境をどう見る。
「基本シナリオは『横ばいから小幅改善』になるだろう。分野別では発電用機器に上振れ余地があり、造船は高水準を維持し、自動車は安定的に推移すると見込んでいる。また建機・鉱山機械は在庫調整をはさみつつも底堅い。一方、型用鋼や鋼管、圧延設備や産業炉など一部の特殊鋼関連分野は弱含みのリスクもあり、今後の動向を注視する必要がある。また原材料や為替、海上運賃の変動が継続していることから、適切な価格反映と効率化の同時推進が不可欠だ」
――鋳鍛鋼業界が抱える課題について、まず原材料動向は。
「鋳鍛鋼業界は複数の構造的課題に直面している。まず原材料は鉄スクラップの輸出市況上昇、船舶のひっ迫、為替の影響などによって価格上方圧力が続いている。またニッケルなどの合金元素やフェロアロイの価格変動も収益を圧迫する要因となっている」
――エネルギー面や物流面での課題を。
「エネルギー面では電力や燃料価格が地政学要因などで不安定な状況が続いており、省エネ投資や熱回収、操業の最適化を一段と進めていく必要がある。物流面についてはイラン情勢を背景とした海上運賃上昇やリードタイム長期化が課題となっており、輸送手段の多様化や適切な在庫バッファの確保などサプライチェーンの強靭化が重要になっている」
――次代を担う人材確保も大きなテーマだ。
「名目賃金の上昇とともに、実質賃金の改善が進みつつある一方、熟練技能者の世代交代を見据え、若手人材の採用や技能の可視化と継承が急務な状況にある。人口減少を含めて若年層の採用は年々厳しくなっており、海外人材の活用やDXによる生産性向上も重要なテーマになっている」
――団体としての活動は。
「業界全体の持続的発展に向けた取り組みを進めている。まず需給や市況のモニタリングを強化し、四半期・月次の生産実績や機種別見通しを共有することで、会員全体の経営計画の精度向上に寄与している。また市況のデータを中心に世界の経済指標や原料価格の推移、物価指数などを整理・共有することで、顧客との価格対話のエビデンスとして活用し、指標連動型の価格見直しへ理解促進にも取り組んでいる」
「当会は企業規模に関わらず多くの企業が所属しているのが特長であり、情報交換や技術交流などでお互いに切磋琢磨している。近年は国内市場縮小やコスト増大などによって、鋳鍛鋼業界に携わる中・小規模メーカーの経営基盤が脅かされている。当会だけでなく、経済産業省にもご協力いただき、需給が緩和している国内の鋳鍛鋼市場においてどのように環境を整備し、対策を講じていくかを議論しなければならない」
――安全活動にも力を注いでいる。
「安全が当業界のベースであり、何よりも優先すべきもの。過去の事例を学びながら次に起こることを予測し、事故やトラブルを起こさせない活動を愚直に展開する。当会ではノウハウや対策をシェアするなど安全活動のレベルが高く、『安全はすべてに優先する』ことを会員に共有し、周知徹底していきたい」
――26年度で力を注ぐ施策を。
「とくに『収益安定』『DXを活用した供給力確保』『人材』を重視していきたい。収益面は原材料やエネルギー、物流の変動を適切に反映できる価格連動メカニズムの導入について顧客の理解を得ながら進める。また鋳鍛鋼産業が顧客に供給し続けるためにも、人件費を含めたベース部分での対価を認めてもらわなければならない。供給面ではDXを活用しながら、設備のボトルネック解消投資や適正在庫の確保、リードタイム短縮などによって重要部材の国内供給体制を維持する。人材面は採用強化に加えて、リスキリングや技能認証の整備、データ活用を取り入れた教育プログラムの拡充などを進める」
――中・長期的なマーケットの見通しは。
「中期的にはエネルギー機器の更新や高効率化、造船分野での環境規制対応、自動車の電動化などによって、高信頼・高強度の鋳鍛鋼に対する需要が底堅く推移するとみている。長期的には国内設備投資の不確実性は残るものの、省人化・自動化・GX関連投資などが進むことで、単なる数量拡大ではなく、付加価値の高い素材技術によって収益を確保する産業構造への転換が進むと考えている」
――今後も市場は大きく変化すると。
「材料技術と製造プロセスの高度化がさらに進むだろう。大型・高強度材料の開発や異材接合技術、先進的な非破壊検査、AIによる欠陥予兆管理などが標準技術として普及していく可能性がある。またサプライチェーンの再編も進み、近接生産や在庫の地産地消化など、輸送コストやリードタイムを含めた供給体制の最適化が競争力の重要な要素になるとみている。人材面では熟練技能者の引退が進む一方で、多能工化やデジタル技術を持つ人材の重要性が高まり、教育投資や処遇改善を含めた持続的な人材投資が不可欠になる」
――その変化するマーケットにどのように対応していくか。
「このような変化に対応するため、『品質を科学するDX』をキーワードに、溶解から造型、熱処理、検査までの工程データを統合するデータ基盤の整備が重要になる。これによって不良低減や歩留まり改善などの品質向上を実現することが可能になる。調達面では、鉄スクラップや合金材料の調達先多様化を図るとともに、相場連動契約の活用によって価格変動リスクへの対応力を高める。さらに物流面においても輸送ルートの多様化や在庫バッファの確保などによってリスク分散を進める。人材面では技能マップと教育カリキュラムの整備を進め、業界全体で技能の体系化と継承を図る。また処遇改善に加えて、自らの仕事の社会的意義を実感できる環境づくりを通じて、やりがいと誇りを持って働くことができる産業を目指していきたい」
――鋳鍛鋼業界に入る方にメッセージを。
「鋳鍛鋼の仕事は決して派手なものではないかもしれない。ただ、世界の社会インフラを素材から支えるという大きな誇りを実感できる業界だと思う。1ミクロンの組織、1度の温度、1秒の時間が巨大装置の安全性や効率、さらには環境性能を左右する。こうした精緻な技術が社会の基盤を支えている。現在、世界は脱炭素化やデジタル化、国際競争の激化など大きな変化の時代を迎えている。私達の業界もその変化の中にあるが、それは同時に新しい可能性が広がる機会でもある。高品質・高信頼の鋳鍛鋼を生み出す技術は、これからも世界に必要とされ続けると確信している。技術とデジタルコアを融合しながら、皆で新たな挑戦に取り組み、次の10年の産業基盤をともに築いていきたい」(濱坂浩司)
「鋳鍛鋼は発電設備や船舶、鉄道や自動車、建設・鉱山機械、圧延設備や産業炉などエネルギーや運輸、社会インフラや製造装置の基幹部材を担う『縁の下の力持ち』である。高温・高圧・高荷重・腐食環境といった過酷な条件で機能する部材の品質・信頼性は顧客の安全確保や安定供給、高効率運転にも直結する。国内における高信頼材の供給体制と検査・認証の蓄積はサプライチェーン強靭化の観点からも、日本の長期的な安全保障や経済安全性を支える重要な基盤であると考えている。また長年培った材料設計から鋳造・鍛造、熱処理・非破壊検査といった総合的な技術力は世界にも高く評価されている。従業員にとっては大規模な社会インフラに『命を吹き込む』素材技術に携われることがこの産業の大きな魅力だと感じる」
――至近10で市場環境は大きく変化した。
「この10年はエネルギー転換や設備投資サイクルの変化、地政学リスクや物流不安、環境規制の強化など複数の構造変化が重なり、需要の質が大きく変化してきた。特に電動化の進展は国内主要産業の自動車生産にも大きな影響を与えている。足元は鋳鋼分野で厳しい環境が続く一方、鍛鋼分野は前年度並みの水準で推移しており、発電用機器向け需要の回復が業界全体の下支えとなっている。国内のマクロ環境を見ると、2026年1月の鉱工業生産が前月比2・2%増と持ち直し、出荷改善・在庫率低下など前向きな動きもみられる。企業マインドは慎重化の兆しがあるものの、賃上げや各種政策効果が緩やかな景気回復を支えている」
――26年度のマーケット環境をどう見る。
「基本シナリオは『横ばいから小幅改善』になるだろう。分野別では発電用機器に上振れ余地があり、造船は高水準を維持し、自動車は安定的に推移すると見込んでいる。また建機・鉱山機械は在庫調整をはさみつつも底堅い。一方、型用鋼や鋼管、圧延設備や産業炉など一部の特殊鋼関連分野は弱含みのリスクもあり、今後の動向を注視する必要がある。また原材料や為替、海上運賃の変動が継続していることから、適切な価格反映と効率化の同時推進が不可欠だ」
――鋳鍛鋼業界が抱える課題について、まず原材料動向は。
「鋳鍛鋼業界は複数の構造的課題に直面している。まず原材料は鉄スクラップの輸出市況上昇、船舶のひっ迫、為替の影響などによって価格上方圧力が続いている。またニッケルなどの合金元素やフェロアロイの価格変動も収益を圧迫する要因となっている」
――エネルギー面や物流面での課題を。
「エネルギー面では電力や燃料価格が地政学要因などで不安定な状況が続いており、省エネ投資や熱回収、操業の最適化を一段と進めていく必要がある。物流面についてはイラン情勢を背景とした海上運賃上昇やリードタイム長期化が課題となっており、輸送手段の多様化や適切な在庫バッファの確保などサプライチェーンの強靭化が重要になっている」
――次代を担う人材確保も大きなテーマだ。
「名目賃金の上昇とともに、実質賃金の改善が進みつつある一方、熟練技能者の世代交代を見据え、若手人材の採用や技能の可視化と継承が急務な状況にある。人口減少を含めて若年層の採用は年々厳しくなっており、海外人材の活用やDXによる生産性向上も重要なテーマになっている」
――団体としての活動は。
「業界全体の持続的発展に向けた取り組みを進めている。まず需給や市況のモニタリングを強化し、四半期・月次の生産実績や機種別見通しを共有することで、会員全体の経営計画の精度向上に寄与している。また市況のデータを中心に世界の経済指標や原料価格の推移、物価指数などを整理・共有することで、顧客との価格対話のエビデンスとして活用し、指標連動型の価格見直しへ理解促進にも取り組んでいる」
「当会は企業規模に関わらず多くの企業が所属しているのが特長であり、情報交換や技術交流などでお互いに切磋琢磨している。近年は国内市場縮小やコスト増大などによって、鋳鍛鋼業界に携わる中・小規模メーカーの経営基盤が脅かされている。当会だけでなく、経済産業省にもご協力いただき、需給が緩和している国内の鋳鍛鋼市場においてどのように環境を整備し、対策を講じていくかを議論しなければならない」
――安全活動にも力を注いでいる。「安全が当業界のベースであり、何よりも優先すべきもの。過去の事例を学びながら次に起こることを予測し、事故やトラブルを起こさせない活動を愚直に展開する。当会ではノウハウや対策をシェアするなど安全活動のレベルが高く、『安全はすべてに優先する』ことを会員に共有し、周知徹底していきたい」
――26年度で力を注ぐ施策を。
「とくに『収益安定』『DXを活用した供給力確保』『人材』を重視していきたい。収益面は原材料やエネルギー、物流の変動を適切に反映できる価格連動メカニズムの導入について顧客の理解を得ながら進める。また鋳鍛鋼産業が顧客に供給し続けるためにも、人件費を含めたベース部分での対価を認めてもらわなければならない。供給面ではDXを活用しながら、設備のボトルネック解消投資や適正在庫の確保、リードタイム短縮などによって重要部材の国内供給体制を維持する。人材面は採用強化に加えて、リスキリングや技能認証の整備、データ活用を取り入れた教育プログラムの拡充などを進める」
――中・長期的なマーケットの見通しは。
「中期的にはエネルギー機器の更新や高効率化、造船分野での環境規制対応、自動車の電動化などによって、高信頼・高強度の鋳鍛鋼に対する需要が底堅く推移するとみている。長期的には国内設備投資の不確実性は残るものの、省人化・自動化・GX関連投資などが進むことで、単なる数量拡大ではなく、付加価値の高い素材技術によって収益を確保する産業構造への転換が進むと考えている」
――今後も市場は大きく変化すると。
「材料技術と製造プロセスの高度化がさらに進むだろう。大型・高強度材料の開発や異材接合技術、先進的な非破壊検査、AIによる欠陥予兆管理などが標準技術として普及していく可能性がある。またサプライチェーンの再編も進み、近接生産や在庫の地産地消化など、輸送コストやリードタイムを含めた供給体制の最適化が競争力の重要な要素になるとみている。人材面では熟練技能者の引退が進む一方で、多能工化やデジタル技術を持つ人材の重要性が高まり、教育投資や処遇改善を含めた持続的な人材投資が不可欠になる」
――その変化するマーケットにどのように対応していくか。
「このような変化に対応するため、『品質を科学するDX』をキーワードに、溶解から造型、熱処理、検査までの工程データを統合するデータ基盤の整備が重要になる。これによって不良低減や歩留まり改善などの品質向上を実現することが可能になる。調達面では、鉄スクラップや合金材料の調達先多様化を図るとともに、相場連動契約の活用によって価格変動リスクへの対応力を高める。さらに物流面においても輸送ルートの多様化や在庫バッファの確保などによってリスク分散を進める。人材面では技能マップと教育カリキュラムの整備を進め、業界全体で技能の体系化と継承を図る。また処遇改善に加えて、自らの仕事の社会的意義を実感できる環境づくりを通じて、やりがいと誇りを持って働くことができる産業を目指していきたい」
――鋳鍛鋼業界に入る方にメッセージを。
「鋳鍛鋼の仕事は決して派手なものではないかもしれない。ただ、世界の社会インフラを素材から支えるという大きな誇りを実感できる業界だと思う。1ミクロンの組織、1度の温度、1秒の時間が巨大装置の安全性や効率、さらには環境性能を左右する。こうした精緻な技術が社会の基盤を支えている。現在、世界は脱炭素化やデジタル化、国際競争の激化など大きな変化の時代を迎えている。私達の業界もその変化の中にあるが、それは同時に新しい可能性が広がる機会でもある。高品質・高信頼の鋳鍛鋼を生み出す技術は、これからも世界に必要とされ続けると確信している。技術とデジタルコアを融合しながら、皆で新たな挑戦に取り組み、次の10年の産業基盤をともに築いていきたい」(濱坂浩司)
















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