「想定を大きく上回るかたちで外部環境が急変し、利益計画は未達となったが、財務基盤の強化や株主還元については目標を達成することができた。主力の鉄鋼事業は、中国の鋼材輸出増加による国際市況低迷の影響を受けた。プライマリーメタル事業は自動車のEV化が米国、欧州中心にスローダウンし、投資を重ねてきた二次電池関連需要が伸びなかった。海外では、現地事業を幅広く展開するインドネシアで政権が交代して公共投資がハードから教育などソフト分野にシフトされ、鉄鋼需要が想定よりも減少した。経常利益は700億円の目標を掲げ、23年度482億円、24年度597億円と順調だったが、25年度はプライマリーメタル事業で南ア・サマンコール関連の損失を計上し、エネルギー・生活資材、海外販売子会社の減速もあって522億円にとどまった」
――一過性の要因を除いた実力ベースの利益は。
「プライマリーメタルとリサイクルメタルは仕入れに対しLMEでヘッジをかけているので、銅やアルミ相場の急騰で一時的に評価損が出た。期初予想は売上高2兆6000億円、営業利益550億円、経常利益550億円。実績は売上高2兆6626億円、営業利益584億円と予想をクリアし、一過性要因を除いた経常利益では556億円と予想水準に着地した」
――グローバル鉄鋼取扱量は1700万トンの目標を掲げていた。
「23年度が1348万トン、24年度は1349万トンで、25年度は1433万トンだった。国内は前年度比10万トン減の786万トン。海外は94万トン増の647万トンだった。アジア市場では中国鋼材輸出の影響で市況低迷が続いているが、地産地消ビジネスや冷鉄源ビジネスの拡大で取扱量を伸ばした。国内は人手不足や物流問題などで想定以上に需要が減少し、伸び悩んだ」
――成長投資は3年間800億円の計画に対して688億円にとどまった。
「キャッシュアウトが26年度に一部ずれ込んだため、実行ベースでは688億円となったが、意思決定ベースでは800億円規模とほぼ計画通りだ」
――10次中計では、経営基盤の強化をテーマの一つに掲げた。
「財務基盤を強化するため利益剰余金の積み上げ、120億円規模の政策保有株の売却などの施策も講じ、自己資本が3031億円から4274億円に増加し、自己資本比率も26・2%から35・3%まで上昇した。1・0倍以下を目指していた有利子負債倍率は0・6倍となり、信用格付けはR&I、JCRともにAマイナスからAフラットに格上げされた。株主還元策としてはDOE(株主資本配当率)を新たな指標に導入し、下限2・5%を目標に設定した。26年3月期は一株290円の配当を実施しており、DOEは3・4%と目標を大幅に上回った。1倍以上を目指すPBR(株価純資産倍率)は0・7倍前後で推移しており、次期中計の継続課題となる」
――ガバナンスの強化については。
「監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行し、監査等委員を含む社外取締役を取締役総数の半数に増やし、ガバナンスの強化を図った」
――人的資本の強化にも取り組んだ。
「商社にとって人材は最も重要な経営資本。グループ全体の人的資本経営を推進するため、24年度に新人事制度を施行し、新たな社員教育制度も導入した。新人事制度では、メリハリある報酬体系、業績評価制度へROICも導入。Hanwa Business Schoolという企業内大学では貿易実務や財務分析はもちろん、営業ノウハウ、投融資管理などの知識やスキルを習得できる環境を整えており、国内MBAの取得支援、海外語学研修などの制度も見直した」
――第11次中期経営計画(26-28年度)をスタートした。
「2030年度以降を見据えて『サプライチェーン創造型商社』への変革に取り組んでいる。第11次中計では、前中計において強化した財務基盤・リスク管理体制を土台に攻めの経営に転じる。『Go Beyond~殻を打ち破れ~』をスローガンに攻めの事業投資を展開し、人的資本をさらに強化、事業ポートフォリオのブラッシュアップに取り組む。トレーディング収益を拡充しながら、事業投資・事業経営を通じてサプライチェーンそのものを設計・高度化していく」
――企業価値の向上、PBR1倍以上を経営課題と位置付ける。
「前中計で3年間平均12・8%と資本コストを上回るROEを維持し、株主還元策も強化してきたが、8倍前後にとどまるPER(株価収益率)の向上が課題」
――3月末の純資産は4329億円、発行済み株式総数が2億1166万株なので、PBR1倍には株価を足元の1700~1900円から2000円以上に引き上げる必要がある
「収益力を高めることで、PERを一般的な目安とされる15倍程度に引き上げつつ、投資家、市場との対話を増やして、当社の成長性、将来性を説明していきたい」
――株主還元策をさらに強化する。
「DOE3・5%下限、総還元性向40%程度を目標に設定した。本年4月1日付で株式の5分割を実施しており、今期の年間配当予想66円はDOE3・6%に相当する。自己株の追加取得を含めて今中計期間で550億円相当の株主還元を計画している」
――成長戦略の一環として投資枠を3年間1600億円に倍増する。
「前中計では財務体質強化、投資ガバナンスに軸足を置いて、DERも0・6倍まで抑えることができた。基礎営業キャッシュフロー、資産の入れ替えなどのキャッシュイン、投融資、株主還元などのキャッシュアウトといったキャッシュ・アロケーションを明確に打ち出し、『Aフラット』の格付け維持を前提として、DER1倍程度までの有利子負債を有効利用しながら成長戦略投資を積極展開する。3年間の投資枠としては最大規模である。ビジネスの付加価値を高めて、収益力を引き上げていく」
――投資ターゲットについて。「1200億円を成長戦略に投じ、欧米投資も計画する。総需要の伸びが見込めない国内は利益率アップにつながる設備更新・拡充を含めたグループ経営の最適化など既存事業に400億円を投じる」
――定量目標は。
「東欧や中東情勢、米中関係など先行きの不透明感は強いが、経常利益目標は750億円に引き上げた。3年間で230億円の利益を積み増す計画で決して容易ではないが、売上高拡大、利益率引き上げ、資本効率の改善、事業投資収益の拡大などを同時に推進していく」
――売上高経常利益率が2%前後のままだと利益目標を達成するには売上高を3兆7500億円に引き上げる必要がある。
「付加価値を高めた営業で面での規模拡大も図りつつ、既存事業における利益率の引き上げやM&Aも活用しながら利益率の高いビジネス領域に参入していく」
――増収増益のシナリオを。
「欧米など、これまで注力できていなかった市場への販路拡大を図り、M&Aも積極展開していく。鉄スクラップや還元鉄などの冷鉄源、銅・アルミスクラップ、グリーン・スチールなど環境配慮型商品の市場も開拓。利益率を改善するため、エンジニアリングや2・3次部品加工などによって付加価値を創出していく。海外のM&Aは、これまで5~10%のマイナー出資に抑制していたが、今後はメジャーを取ることも考えていく。直近、国内62%、海外38%の売上高を国内50%、海外50%へグローバル展開を進めていきたい」
――「サプライチェーン創造型商社」への変革の方策は。
「国内外の流通基盤事業で培ってきた『サプライチェーン創造力』を活かして、ユーザー課題や社会課題を解決するビジネスモデルを創出していく。まずユーザー課題については、ユーザーが自社のコア領域に集中できるよう、事業に必要な財やサービスの最適調達をデザインして提供していく。欧米ビジネス、エンジニアリング事業、加工ソリューション事業などが対象分野。一方、社会課題については、地球環境持続に不可欠でありながら調達が困難な原料・エネルギーを安定的に確保・供給するサプライチェーンを構築していく。環境配慮型の原料・燃料ビジネス、電池原料・蓄電池・電気事業、再生可能エネルギー事業などが対象になる」
――欧米でのビジネス展開を。
「欧米戦略担当役員を配置し、まずは域内の投資案件を探っていく。欧州については環境規制などの非関税障壁をクリアしながら市場を開拓する必要があり、インドネシアなど東南アジアでソースを拡大している電炉鋼材、HBI等の冷鉄源を輸出しながら、域内完結型ビジネス創出のチャンスも探っていく」
――米州では、日本製鉄、JFEスチールはじめ日本の鉄鋼メーカーが幅広く事業展開している。
「ニューヨーク、ヒューストン、ロサンゼルスなどに現法・支店・事務所を配置し、コイルセンターはメキシコのセラヤで自動車関連ビジネスをメインとして続けている。米国西海岸の米墨国境にあるサンディエゴ・ビスタ・スチールサービスについてはより需要地に近い地域への再配置も検討中で、新たなサプライチェーンを創出していく。当社はまだ米州地域には出遅れており、海外投資1200億円の相当部分を使い、米国南部から中西部のブラウンフィールド中心にM&Aの機会を探っていく」
――欧州については、
「イギリス、オランダ、イタリアなどに現法を配置している。本年からCBAM(炭素国境メカニズム)の運用が開始されたため、日本製のグリーン鋼材、東南アジアの原燃料や鉄鋼製品の輸出を拡大しながら、事業投融資を通じてインサイダーとしてのポジションを固めていく。さらに経済発展が期待される東欧へもビジネスを広げていきたい。インドネシアの徳信鋼鉄材の輸出や三菱マテリアルとのオランダでのEスクラップのリサイクル事業はそれぞれ伸びている」
――東南アジアはインドネシア、ベトナム、シンガポール、マレーシアなどで幅広く現地事業を展開している。
「約15年前から日本の需要縮小を見越して、『東南アジアにもう一つの阪和を』を構築するスタンスで事業投融資を続けてきた。インドネシアでは、中国の徳龍鋼鉄との合弁、徳信鋼鉄が高炉3基体制で、年間700万トンの生産能力を持ち、ビレット、丸棒、線材、スラブを製造している。年産100万トンの電炉形鋼ミルを運営するガルーダ・ヤマトスチールにも大和工業と共同で当社も15%出資するなど地産地消ビジネスを広げている」
――中国は経済成長が鈍化し、鉄鋼需給も悪化している。
「日本企業とのビジネス環境は厳しく、日本製の鋼材輸出も限られているが、一部の当社コイルセンターは中国メーカーとの取引を増やし、好調に推移している。世界最大の市場であり、大明国際など現地の大手加工・流通との地産地消ビジネスを拡大していく。中国国内での新規投資は難しいが、海外投資を加速する中国企業と一緒に中東やアフリカ市場の開拓チャンスを探っていきたい」
――中東からアフリカは長期の成長期待市場。「中東は地政学的なリスクがあるが、ドバイの駐在員はアフリカの市場開拓に取り組んでいる。インドネシアでニッケル・ステンレス事業を共同運営する青山鋼鉄集団はじめ中国企業がアフリカに進出しているので、チャンスを探っていく」
――次期中計(2029ー31年度)で経常利益1000億円を目指すことになる。
「今中計目標の750億円を確実に達成して、30年代の早い時期に1000億円規模に引き上げたい」
――鉄鋼市場の構造変化が加速し、8000万トンあった国内需要が5000万トン前後に縮小し、4000万トン台前半に落ち込む可能性が指摘されている。中計目標のグローバル鉄鋼取扱量1700万トンの国内想定は。
「25年度は国内が単体672万トン、グループ会社販売分113万トンの786万トンで、海外は647万トンだった。配分は市場環境にもよるが国内800万トン、海外900万トンを目標に、主に海外を伸ばしていく。当社が伸ばす余地のある地域についてもM&Aを絡めながら市場開拓を進め、取扱数量を増やすとともに付加価値、収益性も高めていく」
――加工・物流機能の高度化と同時に能力の調整も必要となる。
「兼松トレーディング(現・HKGトレーディング)とその子会社をグループ化したのは、鉄鋼流通の再編をリードしていく決意の表明。需要構造も変化しており、新たなサプライチェーンの創出に取り組んでいく。本社の新基幹システムの稼働に続いて、グループ全体でDX化を推進することにより、加工・物流機能の最適化を図っていく」
――海外の市場開拓も期待されている。
「シンガポール、ベトナム、インドネシアなどで現地の流通企業に出資しながら商売を拡充してきた。ハンワ・インドネシアの社員はローカル・スタッフを含めて250人を超えている。事業セグメントのひとつ『海外販売子会社』は東南アジアのビジネスが中心であるが売上高は5000億円を超えている。本年3月、物流会社のハンワ・ロジスティクス・シンガポールを設立し、ASEAN諸国、インド、中国、欧米など広域マーケットを視野に入れて、フォワーディングという物流機能からサプライチェーンの付加価値化と変革を牽引していく」
――一方、鉄鋼・非鉄業界は高度循環型社会への転換への対応を迫られている。
「鉄スクラップなど冷鉄源ビジネスを強化分野と位置付けている。このほど一部出資したシンガポールのグリーン・イー・スチールがマレーシアで年産80万トン規模の直接還元鉄プラントを操業しており、ホットブリケッテッド・アイアン(HBI)の販売権の一部を取得した。韓国やベトナム向けの輸出が増えており、日本の需要の盛り上がりを見極めつつ、東マレーシアで計画中の年産250万トンの新工場からの販売権も獲得して取扱量を増やしていく」
――国内の取り組みは。
「冷鉄源の需要拡大を見据えたサプライチェーンの創出に取り組んでいる。2024年度に新設した『製鉄資源部』がグループ会社や納入先からのリターンスクラップの回収・調達を拡大している」
――バイオマス燃料は国内トップシェアを伸ばしている。
「インドネシアなどでPKS(パーム椰子殻)や木質ペレットを調達し、日本の電力会社へ長期契約で納入している。安定供給とフレート対策を目的として3隻の専用船も用船しており、年間250万トン規模のバイオマス燃料を輸入している」(谷藤 真澄)























