商社の経営戦略 構造変化を見据えて/三井物産 高杉亮執行役員鉄鋼製品本部長/海外新事業、着実に進展/領域ごとにバリューチェーン強化

商社の経営戦略 構造変化を見据えて/三井物産 高杉亮執行役員鉄鋼製品本部長/海外新事業、着実に進展/領域ごとにバリューチェーン強化
――鉄鋼製品本部の2025年度の利益は期初予想150億円から上振れし、189億円と前年比43%増加した。中期計画最終年度でもあり、利益の水準をどう評価する。

「25年度は基礎収益力の強化に取り組み、概ね想定していた利益水準に達することができた。トレーディングは国内外の需要が厳しい中で、MBK(本社)、MBS(三井物産スチール)ともに実績を着実に積み上げた。関税障壁や国際鋼材市況低迷の中、影響の少ない中東や中南米向けでの積み増しを図るとともに、レールやエネルギー資材関連も堅調に推移した。加えて既存事業の効率化・ターンアラウンド、新規事業開発に取り組み、シンガポールのリージェンシー・スチール・アジアは24年度に市況低下で一過性の損失を計上したが下方耐性を強化して黒字に転換した。ASEAN全体での建材のトレーディングや在庫管理など効率性を重視した取り組みが成果を上げた」

――米国や欧州で新たな事業会社が戦力化している。

「米国の薄板加工のスチールテクノロジーズは事業の効率化と販売強化を図り、英国のパイプライン整備事業のスタッツはパイプライン関係で新規案件の開拓を進め、それぞれ業績を向上させた。さらに新規事業として、パイプの内部形状をデータ化するパイプラインズ2データ社の買収を本年4月初めに決定し、今後シナジーを実現していく。欧州の変圧器やEVの市場拡大に対応すべく新設したポーランドの電磁鋼板向けサービスセンターのPMSは4月から計画通り量産を開始し、5月に開所式を行った。欧州の電磁鋼板需要の拡大を捉える将来の収益基盤とすることを目指しており、新規事業の取り組みが着実に進んだ1年だった」

――自動車部品製造のゲスタンプ、風力発電用タワー・フランジ製造のGRIリニューアブル・インダストリーズは減益に。今期は回復に向かうのか。

「グローバルな潮流の変化で特に欧州や米国でEVの生産台数が想定を下回り、ゲスタンプは販売面・利益面で前年度比減となったが、コスト削減やOEMとの各種交渉を通じて収益率は改善傾向にある。ゲスタンプの主力販売先である欧米系OEM向けの販売回復、日系・アジア系OEM向けの拡大を目指している。ホットスタンピングやハイフォーム、ファーストフォーミングなどの高付加価値技術を持ち、技術力の向上を通じて顧客への価値を高めていく」

「GRIではフランジ事業は中国国内の事業が活発で順調に推移したが、タワー事業は風力発電の揺り戻しを受けて一部拠点での生産が減少し、全体としては当初の想定を下回る結果となった」

――26年度開始の新中期経営計画で取り組む主なテーマは。

「鉄鋼製品事業を安定した成長のステージに引き上げていく。今年度の税後利益は200億円、中期経営計画最終年度の28年度は350億円を計画している。基礎収益力の強化、効率化・ターンアラウンド、新規事業の推進に着実に取り組む。特に成長地域での事業強化や高付加価値分野の拡大を目指す。グリーンスチールについてもその重要性と価値を顧客に認知していただくため、欧州中心にマーケティング活動を継続し、需要が本格化するタイミングを見据えて準備を進め、創出される新しい需要を捉える素地を創っていく。昨年から事業全体を4つのドメイン(流通・インフラソリューション、建設バリューチェーン、モビリティバリューチェーン、エネルギーバリューチェーン)に整理し、連結グローバル・グループでそれぞれのドメインの事業強化に臨む体制がこの1年で定着してきている。各ドメインでグローバルでのトレーディングと事業を融合しながらバリューチェーンをさらに高度化する。ドメイン間での協働、総合商社として他の事業本部との協業を通じて顧客により幅広いサービス・機能を提供し、基礎収益力の向上を図っていく」

――トレーディングと事業の強化策は。

「グローバルトレーディングの更なる強化を目指す。国内は需要の拡大が見通しにくい中で、顧客ごとに新たな機能・サービスを提供し、事業の維持・拡大を目指す。成長地域の北中米と東南アジア、アフリカ、インド、欧州でのトレーディングの取り組みを深める。特に北米、インド、アフリカでの顧客開拓やサービス・機能を強化する。欧州はグリーンスチールの拡販に向けてマーケティングを強化し、顧客への浸透を図る。需要が伸びるインドは商品や地域ごとに異なるマーケットに対応するべく、適切な商品を提供し、地産地消、高級鋼材のマーケティング、サービス機能の提供でビジネスを広げる。北中米はUSMCAが維持され、関税が継続される前提の中で一定の価格水準と人口増、リショアリングによる製造業の回帰などに伴う市場の拡大が見込まれ、機能を発揮しながら伸びゆく需要を捉えていく」

――USスチールとの取引の強化策は。スチールテクノロジーズの機能をどう生かす。

「USSが設備更新・新規投資・事業ポートフォリオの強化を進める中、マーケティングや機能面での提案を行っていく。スチールテクノロジーズの鋼材加工・流通機能をさらに強化し、加工・物流・在庫機能や付加価値の高いサービス、物流面など複合的な形で提案しながら機能を発揮していく。同社は北中米に31カ所に加工拠点を有しており、中西部中心に五大湖周辺、南部やメキシコ、カナダと広く配置している。USSの各製鉄所に近接する拠点から、顧客のニーズ、製鉄所のニーズを踏まえつつ地場でのサービスの高度化を追求する。米国での新規事業機会も検討中であり、状況を見極めながら川下分野における付加価値の高いサービスの提供を検討していく」

――MBSの事業の強化策、MBKとの連携策は。

「基礎収益力の強化を最重要課題とし、マーケティングや業務の効率化にも引き続き力を注ぐ。自動車、電磁鋼板やエネルギー、インフラ関連で販売の拡大、サービスの強化に向けた施策を積み重ねて販売力・収益力を高めていく。MBSは本社を6月に当社に隣接するビルに移転しており、ドメイン間および他事業本部との連携を深め、成果につなげていく」

――インドや東南アジアの事業戦略は。

「既存のサービスセンターの強化や地場の出資先との連携を通じた新たな事業機会の追求を目指す。流通加工・プラットフォーム機能の提供など、当社が独自の機能を発揮できる分野を見極めながら検討を進めていく」

「東南アジアは引続き建設需要の成長が見込まれ、リージェンシー・スチール・アジアを核として、地場のパートナーとの連携を深めつつ、シンガポール及び周辺国での建材販売を強化していく。出資先のサイアム・ヤマトはタイ政府の通商措置によって収益は改善しており、タイ建材需要が堅調に推移する中でシェアの回復を図っていく」

――中国の宝山鋼鉄との薄板加工事業は。

「地場における競合は厳しい状況が継続しているが、需要の着実な捕捉により販売は回復しつつある」

――アフリカで事業をどう展開する。

「アフリカでのビジネスの拡大を目指してマーケティング活動を行っている。特に南部・東部アフリカは今後も堅実な需要の拡大が見込まれ、建材を中心に日本や近隣国からの輸入、国内メーカーからの供給を通じたサポートを強化していく」

――欧州市場を取り込む具体策は。

「グリーンスチールの販売強化を目指していく。CBAM(EU炭素国境調整メカニズム)が施行されたが、需要家へのプレミアムの浸透は一定の時間を要すると見られ、タイミングを見据えながら近隣地域も含めてビジネスの可能性を追求していく。地場鉄鋼メーカーも含めたネットワークの拡大を目指していく」

――中東情勢による影響は。正常化後に見込めるプラスの要素とは。

「ビジネスの本格再開はホルムズ海峡が開放され安全性が確保されてからとなる。一部の客先向けに就いては海峡外の揚港への船積を再開しつつあるが、コスト増への対応などを含め、顧客には解決策を提案しながら個別対応していく。損益面への影響はまだ不透明な状況であり、足元ではまだ見通しが難しい状況が継続している。正常化されればオイル&ガス系の設備の補修・復興需要の可能性があり、スタッツが持つ機能など含め顧客のニーズに対応したサービスを提供していきたい」

――電磁鋼板を加工する蘭EMS、加TMS、波PMSの事業の見通しと加工拠点をさらに増やす考えは。

「AI利用の拡大やデータセンター建設など、電力需要、変圧器需要の増大は継続する見通しであり、バリューチェーンの構築・強化を通じて顧客をサポートしていく。EV用のモーター関連の需要の伸びは足元ではややスローダウンしているが、中東紛争に伴うガソリン価格の高騰に伴いEVへのシフトが進むことも想定され、これらの流れも注視しつつ、需要をしっかりと捕捉していく。今後については海外の各地域での需要の拡大や関連産業の発展状況に応じて検討を進めていく。欧州では中東欧地域に於ける需要拡大の動きもあり、既存アセットを含む事業強化を目指していく」(植木 美知也)



環境に貢献する企業2026

特集・インタビュー

トップ交代人事

書籍・出版物

サービス

産業新聞のサービス