商社の経営戦略 構造変化を見据えて/神鋼商事 髙下拡展社長/長期視点で企業価値向上/投資案件、着実に収益つなげる

商社の経営戦略 構造変化を見据えて/神鋼商事 髙下拡展社長/長期視点で企業価値向上/投資案件、着実に収益つなげる
――2026年3月期は連結経常利益が前期比6%減の110億円にとどまった。

「25年3月期実績が118億円で、120億円を目指してスタートしたが、鉄鋼、原料の減益が響いた。金属本部が16%減の75億円、機械・溶接本部は23%増の37億円だった」

――金属本部のうち鉄鋼ユニットは16%減の47億円。

「特殊鋼線材は健闘したが、建設向けの鋼板需要が減少し、価格下落も重なって収益が悪化した。投資先からの受取配当金は増加したが、前期の持分法適用会社の負ののれん発生益の剥落があった」

――アルミ・銅ユニットは10%減の28億円。

「銅やアルミの相場上昇による増益はあったが、自動車向けアルミ板の数量が減少した」

――原料ユニットは2億円の利益から1億円の損失に後退した。

「バイオマス燃料は、納入先の発電所が事故によって操業を停止していた影響が続き、豪州炭鉱の復旧遅延も影響した」

――機械・溶接本部の内訳は。

「機械ユニットは33%増の30億円で、ヒートポンプや非汎用圧縮機などの機械販売、メンテナンス・サービスが好調で、国内子会社マツボーの受注、中国の建機部品ビジネスも好調に推移した。溶接ユニットは溶接材料の価格が上昇したが、数量が減少し、14%減の6億円にとどまった」

――今期の経営環境認識は。

「データセンターの建設ラッシュによって半導体製造装置向けが好調で、サプライチェーンの供給能力を上回る見方もあって、アルミ厚板は国内優先の供給態勢で構えている。日系自動車の生産台数は横ばいを想定している。一方、パワー半導体向けの銅製品は、EV向けの開発が再開される動きやデータセンター向けのパワーコンディショナーの需要がとても活発になってきているので、回復が期待できる。原料関連は、アルミスクラップの価格上昇、バイオマス燃料の需要回復を見込んでいる。機械は水素やアンモニアなど新エネルギーの液化装置用の圧縮機の需要が増加傾向にあって、当面は堅調な推移を見込む。溶接材料は国内販売の好調が続くと見ている」

――経常利益は、金属が前期並みの75億円、機械・溶接が3億円増の40億円、合計で115億円を予想する。

「鉄鋼は数量・価格面の改善を見込むが営業外収益の減少等により8億円減の39億円と予想。アルミ・銅は半導体装置向けのアルミ厚板、エアコン向けの銅管の販売増加を見込むが、販管費も増加するため1億円減の27億円と予想する。原料はバイオマス発電所、豪州炭鉱の操業回復を前提に9億円の利益を見込んでいる」

――機械・溶接は。

「機械は非汎用圧縮機が引き続き好調なため微増の31億円を見込み、溶接は国内子会社が堅調に推移しており3億円増の9億円と予想する」

――「中期経営計画2026」(24-26年度)が最終コーナーを迎える。

「23年度の経常利益が128億円で、今中計は24年度118億円、25年度110億円、26年度見通しが115億円。最終年度目標145億円は未達となる見通しであるものの、次期中計も見据え事業ポートフォリオの変革や積極的な成長投資の検討を進めている。投資総額は26年度までの3カ年で230億円の計画に対し、現時点ではキャッシュアウトベースで168億円、意思決定ベースで285億円の投資を見込んでいる。投資案件を着実に立ち上げ、収益貢献につなげたい」

――為替レートは1ドル145円の想定。

「1円の変動で、経常利益でプラスマイナス約4000万円のインパクトがあり、現状の為替が続くと上振れる要素はある」

――本年度実行する案件は。

「切削工具や金型の表面に高硬度で高密着な被膜を行う神戸製鋼所製『アークイオンプレーティング装置』の中国市場開拓に向けて、現地の成膜加工メーカーの成都千木林新材料との3社で『神林科晶新材料』を設立した。被膜の機能を広く市場に浸透させるための受託成膜を行う。タングステンなど超硬工具の原材料の価格が高騰する中、受託成膜した工具の耐久性を上げ、装置の販売につなげていく」

――ろう材メーカーを連結子会社化した。

「1962年設立で、銀や銅、リン銅などのろう材やフラックスの製造販売、受託加工を行う『金属溶材』の全株式を取得した。金属ろう材は、異種金属の接合に必要な材料で、自動車や航空機、空調機器など幅広い分野で使用されており、半導体や宇宙産業などの成長分野でも需要の拡大が見込まれる。得意とする溶接材料にろう材をラインナップに加えて接合ソリューションを提供し、事業領域の拡大と収益基盤の拡大を目指す」

――鉄鋼関連は。

「尾張精機がインドで自動車用ファスナー部品を加工している会社に一部出資した。インド国内需要を捕捉するため線材サプライチェーン構築の足掛かりにしたいと考えている。米国の線材加工拠点のGBPは、材料に輸入関税が賦課され苦戦しているが、現地の材料を活用した地産地消の新たなサプライチェーンの構築を含めて事業拡大の検討を進めている」

――関税障壁はあるが、米国国内への投資スタンスは。

「米国は経済成長が見込め、機械関連のビジネスが広がりや、非鉄リサイクルのニーズも期待できる。ビジネスチャンスを逃さないようにしたい」

――マツボーに続く機械ビジネスのM&Aの可能性について。

「海外の機械を輸入販売し、据え付け、技術サービスも行うマツボーのビジネスモデルは付加価値が高い。VOC(顧客の声)からビジネスを創るマーケットインの発想をベースに、M&A含め、サプライチェーンの拡充、機能強化に向けた検討を進めている」

――パーパスを制定した。

「25年11月にパーパスを制定。『自ら変化に挑む、人の力で価値をつくり・むすび・ひらき、ワクワクする未来を創造する』とし、一人一人が主体的、自律的に変革に挑戦していく企業風土の醸成に取り組んでいる。また、26年5月には、社会的価値と経済的価値の両立を実現するための重要課題、新マテリアリティを特定した。全グループ社員で共有し、マテリアリティと経営戦略の連動による中長期的な企業価値の向上を図る」

――鉄鋼・非鉄金属業界は高度循環型社会への転換を迫られている。

「資源循環では、低品位アルミくずの高度選別・格上げ事業、アルミ・サッシくずの自動選別・水平リサイクル事業、石炭代替のバイオマス燃料製造事業等、社会的価値があり拡張性のある事業に取り組んでおり、それぞれ活動が本格化してきている」

――田口金属とゾルバの展伸材への活用に挑戦する。

「ゾルバと呼ばれる低品位アルミくずを高度選別技術によって鋳物用のみならず展伸材にも再利用する。非鉄金属スクラップの回収に強みを持つ田口金属と『ベスパ―・メタルズ』を設立。土地を確保し、来年10月の稼働に向けて準備を進めている。年産1万5千トン、売上高約60億円を目指している。海外に流出している金属資源の国内循環に貢献できる新たなビジネスモデルで、国内のリサイクル企業から多くの問い合わせをいただいており、実績を積み重ねながら横展開していきたいと考えている」

――クルマ商事とはアルミ・サッシの水平リサイクル事業を立ち上げた。

「北陸地方で非鉄金属スクラップ回収事業を展開するクルマ商事をパートナーとし、富山県射水市の同社敷地内にアルミサッシリサイクルプラントを新設した。スクラップを高度選別することによってサッシメーカーのリサイクル原料ニーズに応える資源循環型ビジネスを、本年5月に開始した。選別技術の精度を上げているところで、年産7200トン、約27億円の売上高を目指している」

――アルミメーカーとの共同研究も開始した。

「神戸製鋼所、UACJ、三協立山、アサヒセイレンのメーカー4社、総合リサイクル企業のサイクラーズ、早稲田大学、日本アルミニウム協会とともにミックススクラップの展伸材へのリサイクル活用に向けて研究開発を開始した。回収された家電や廃車などのミックススクラップや樹脂付きサッシを自動車ボディパネル材や電機・電子機器向けの展伸材としてリサイクルできる高度選別・前処理プロセスの確立を目指すもので、NEDOとも連携し、アルミ循環型社会の構築に取り組む」

――ベトナムでも新たなアプローチを開始する。

「出資先のビナ・ワシン・アルミナムがアルミ押出材を生産している。同社の溶解プロセスにスクラップを投入して、グリーンアルミビレットを製造する技術開発に取り組む。良質なアルミスクラップの調達、高度選別、溶解プロセスでの純度向上など課題は多いが、一つずつクリアし、汎用品から二輪車部品などへ用途を広げていきたい」

――バイオマス燃料事業では、パーム椰子殻(PKS)に加えて、ブラックバークペレット事業を開始した。

「木材の加工時に発生する樹皮(バーク)を原料とした木質ペレットを製造し、炭化装置で熱処理することで、脱炭素に直結する新エネルギーのブラックバークペレットを安定供給する新たなビジネスモデル。熊谷組と清本鉄工の合弁会社『ローカルエナジーシステム』に資本参加。愛媛県に新設した西条工場が完成し、竣工式が7月15日に開催された。年産能力3万トンで、ブラックバークペレット工場としては国内初。試運転に入っており、10月の商業運転開始を予定する。将来的には他地域や海外への展開も検討していく」

――縮小する国内市場への対策も求められている。

「特殊鋼線材分野では、神戸製鋼所から線材を調達し、一部出資するオーナー系の2・3次加工メーカーとのビジネスを展開している。需要が大きく変動する中、需給・納期・在庫管理を高度化するDXプラットフォームの構築によりサプライチェーンの効率化、省人化に繋げ、競争力の強化を図る」

――次期中計のテーマを。

「次期中計策定に向けて、全社横断のプロジェクトを立ち上げ、事業ポートフォリオのあり方を含めた経営戦略について協議を開始している」

――国内・海外のバランスについて。

「売上高は国内約65%、海外約35%で、海外を40%には引き上げたい」

――海外における成長戦略を。

「米国、中国、タイの三大現地法人が引き続き中心となる。米国は収益構造の見直しがテーマ。中国は地産地消等、事業の転換が急速に進む中、当社として機能を発揮出来る方策を考えていく。タイは停滞していた自動車生産が回復基調にあり、新しいアイテムに挑戦する素地もありそうだ。中長期的にはインドの伸びる需要を捕捉するための加工ビジネス等の検討も進めたい」

――東証プライム企業としてPBR1倍が継続課題の一つとなっている。

「連結配当性向30%以上、または1株当たり配当100円のいずれか高い方とする方針を打ち出し、前期は106円の配当を実施した。今期は、普通配当104円に創立80周年記念配当26円を加えた年間130円の配当を発表したが、PBRは0・7倍以下にとどまっている。将来の成長に対する投資家からの期待値を引き上げていく必要がある。11月の80周年に向け、『ミライカダイ 挑戦商社』を新たな企業イメージに据えた。次期中計では、事業投資など成長戦略を加速する」(谷藤 真澄)



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