「鋼材の内需は2025年度に5000万トンを割り込み、26年度は24、25年度並みとの年度当初の想定から大きな変化はみられない。自動車は前年並みで推移し、産業機械は内需に基づいた力強さには欠けるものの、好調な外需が牽引して持ち直している。建築・土木は人手不足などの影響もあり、依然低調。下期から来年度にかけて一部大型物件が動き出すことへの期待感はあるが、現時点では明確ではない。ただ、足元の低位の需要環境が新常態であるとみるなら、そう大きく崩れるという状況でもない。短期的には上期より下期の方が需要の水準は幾分かは高くなり、緩やかに上向くとみている」
――海外市場にも大きな変化はみられない。
「中東紛争やEUのセーフガードの後継措置発令などの不透明要因はあるものの、全体感は大きく変わらない。中国の粗鋼生産や鋼材輸出は前年を若干下回ってはいるが、過剰な製造能力を抱える中国が、国内で消化しきれない鋼材をアジア中心に大量に輸出し続ける構図は変わっていない。各国による通商措置を受け、半製品の輸出を増やすなど中身も変わってきているが、供給過剰を解消する具体的な動きはみえてこない。中国自動車メーカーのアジア進出に伴い、日系自動車メーカーのシェアがジリジリと低下している点は気がかりであり、鉄鋼メーカーとしても可能な限り支援していきたい」
――2026年度は主原料をはじめ諸コストが大幅に上がっている。取り組んでいる鋼材値上げについて。
「今年度は、コスト上昇への対応を営業部門の最重要課題の一つとして考え、26年度上期は合計1万5000円の値上げに取り組んできた。お客様によっては交渉に時間を要し、一部に積み残しはあるが、下期の早い段階でご了承いただくべく丁寧に会話を進めており、おおむね理解をいただいている。一方で至近において企業物価指数の上昇幅を見ても分かる通り、年度当初よりもバンカーや電力・ガスなどの諸物価の上昇圧力が強い。さらに足元では原料炭のスポット価格が想定以上に大きく上がっている。こうした諸物価高騰と原料炭価格上昇の影響などを総合的に踏まえ、下期にトン1万円の追加値上げをお願いする方針とした。上期からの取り組みと合わせると、今年度累計でトン2万5000円の値上げとなることから、お客様には丁寧に説明しながら理解を求めていく。流通・加工の企業もコスト上昇の影響を受けており、鉄鋼のサプライチェーン全体で再生産可能な価格水準を確保するための取り組みを継続していく」
「主原料価格のボラティリティが高く、どうしても変動するコストの対応に追われがちとなってしまうが、本来、鉄鋼製品の価格は、コストだけでなく、需給や製品が持つ機能、代替素材との競合などさまざまな要素で決まるもの。鉄の価値を正当に評価してもらうために、価値を上げる活動に取り組むのが営業の仕事であり、中長期の目線も踏まえて適正な価格水準を目指していく」
――収益力を高めるために現中期計画でも高付加価値品比率を高めようとしている。無方向性電磁鋼板(NO)の需要は電気自動車(BEV)向けが想定を下回る一方で、洋上風力発電向けの大単重厚板は国内でも出荷が始まった。「環境にやさしく、高効率な社会を造り上げていくためにエコプロダクト含め高付加価値製品の開発・供給を拡大していく。高付加価値品比率は25年度に53%まで上昇し、27年度は60%を目指しているが、環境価値に対する需要産業の理解や全体的な社会の動きにも左右されることから、比率上昇のスピードは当初想定通りではない。BEVの生産台数が数年前の予想を下回っているが、ハイブリッド車は増えており、NO全体の需要は増加している。洋上風力向けでは、JFEエンジニアリングのモノパイルの工場が今夏に本格稼働し、材料となる大単重厚板を供給している。国内の洋上風力プロジェクトは秋田の潟上が始まり、ラウンド2の次の案件も議論が進んでいる。今後のラウンド3の始動に加え、ラウンド1の再入札も注視される。社会の情勢によって需要は振れるが、国内のモノパイル工場はJFEエンジだけであることから、プロジェクトの動き出しに期待している」
――大単重厚板は海外の洋上風力向けの輸出が増えている。
「風力発電の主戦場は海外、とりわけ欧州である。通商措置によるバリアが高いエリアだが、洋上風力は欧州のエネルギー政策の中核であり、プロジェクトは必ず進む。当社が鋼材を提供することで欧州のエネルギー自給に寄与することになることなどを含め、行政の力も借りながら当社材の本質的な価値を訴えていきたい」
――インド事業について。JJSLの現状と販売の状況を。
「JJSLに技術者を派遣し、実力を把握しながら、操業支援を行っている。歩留まりは徐々に改善しており、収益が改善していく見通しだ。JJSLの26年度の最大のテーマとして、現在の年産能力450万トンから1000万トン規模への能力拡張のプランニングに注力している。設備、製造品種など年度内に決め、能力拡張に向かう。当社の基本コンセプトとして、パートナーとの役割を分担しており、販売についてはJJSLで製造する製品は基本、パートナーのJSWスチール側の力を活用していく。インドの合弁事業で当社が最も貢献できるのは技術の領域であり、そこがメインになる。JSW側が手掛けておらず、当社がノウハウを持つ製品を製造するような場合には、販売面でも協力していく。GO製造のJ2ESについて、ナーシク拠点は28年度以降から生産能力を段階的に増やし、現行から25万トンに拡張するため準備を進めている。ビジャヤナガル拠点は27年度中の商業生産開始に向けて計画を進めており、インド事業の基盤を確実に強化していく」
――インドではジンダル・ステンレスへの技術支援を決めた。
「ジンダル・ステレスは生産能力は大きいが、生産するステンレスの鋼種が限られている。今回当社はフェライト系ステンレスの製造を支援する。全面的な包括提携ではなく、操業や製品開発の支援を行う方針だ」
――ビジネスの前提が揺らぐ北米での事業強化策に進展は。
「CSIは単圧ミルのためスラブを輸入し、関税引上げでコストは上がっているが、鋼板市況が前年から大きく上がり、収益は改善している。メキシコのNJSMはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の動向が気がかりだが、カナダに比べメキシコはソフトランディングする可能性が高く、現段階ではビジネスモデルが大きく崩れることはないと見ている。メキシコ内の自動車生産は当初想定ほどは伸びず、年400万台前後で推移しているが、この生産水準においてもNJSMは収益を確保できるレベルであり、お客様もUSMCAの動向を様子見の状況で大きな動きはない。ニューコアとは協業の可能性について常に会話をしている。自動車用鋼板やGOなど需要や他社の投資の動きなど市場の状況をアップデートしながら議論している」
――中国、ASEANの事業会社を取り巻く環境は厳しさを増している。「環境が大きく変化しているため、事業ポートフォリオが最適かどうか、定期的に見直しを進めている。今後もあるべき事業ポートフォリオを意識して見直していくが、現状は中国で日系自動車が苦戦する中でも、鋼板製造のGJSSは健闘し、特殊鋼棒鋼製造のBJSSはプロミックス改善策の進展などで収益を改善している」
――鋼材の輸出比率は金額ベースで上期で41%程度を見込む。下期以降もさほど変わらない見通しか。
「現状大きく増えることは考えにくい。アフリカや中南米など鉄鋼産業が成熟していないエリアへの輸出は増える可能性はあるが、基本的には鉄鋼の自給化の進展に向けた、保護貿易の動きという大きなトレンドが継続するだろう。成長する地域については、輸出だけに依存せず、事業を通じた地産地消モデルを構築し、海外の成長の果実を捕捉する」
――近年増えていた亜鉛めっき鋼板やニッケル系ステンレスの輸入量が減少に転じている。通商措置による輸入減、市場への影響をどうみているか。
「政府による昨年来のAD(アンチダンピング)調査、本年8月発表の暫定措置の効果が表れている。ただ、提訴対象国以外からの輸入が増えており、追加的措置を考える議論が出てくるのではないか。数量ボリュームの大きい熱延、冷延のAD調査の最終判定までは時間を要するが、公正な競争環境の確保につながる暫定措置を期待している」
――28年度に倉敷地区で革新電気炉の稼働を予定している。GXスチールの採用、市場形成への進捗は。
「環境意識の高い企業の皆様に当社のGXスチール『JGreeX』を採用いただいているが、本格的な浸透に向けては民間の力だけでは難しく、行政の支援が引き続き重要なドライビングフォースになると考えている。グリーン購入法における物品調達基準、クリーンエネルギー自動車導入促進に向けたCEV補助金や国土交通省発注の土木工事での試行工事や低炭素型建材を活用した新築ZEBへの支援事業、ゼロエミッション船建造に必要な装置の導入支援事業などで、GXスチールの使用を促す制度設計は進みつつあるが、環境価値をサプライチェーン全体で認めていただけるGXスチールの市場を形成していくには、さらなるインセンティブとともに規制も必要ではないかと考えている。日本鉄鋼連盟としては、CFPでの証明ニーズに応えるGXアロケーション方式を新たに導入しているが、このように、国内外の制度やお客様のニーズを踏まえながら、倉敷革新電気炉鋼材を含めたGXスチールの価値を社会に認めていただけるような環境を整備し販売していく方策が今後の大きな課題となる。構想段階だが、環境価値を理解していただき、その普及に賛同いただける企業とGX市場形成に向けた協創ネットワークを構築していく活動を考えていきたい」
――CCS・CCUSにラインパイプが採用されるなどカーボンニュートラル関連向けの鋼管需要が徐々に増えている。
「CCSや地熱発電向けの需要の広がりが期待され、それぞれの用途で要求される鋼材の研究開発を進めている。世界的に中東の原油依存度が高いが、中東情勢を契機に、中東以外のエリアでの原油開発、または原油から天然ガスへのシフトという大きなうねりが動き始めている。新たに生じる需要を取り込んでいきたい」
――大和工業、ヨドコウとそれぞれ協業の検討を進めている。具体策は固まりつつあるのか。
「大和工業とは当初から幅広い可能性について対話を続けてきた。協業検討を発表した後に当社の福山地区の形鋼事業をJFE条鋼に移管することが決まり、その変化を踏まえてどのような協業がよいかも含めて議論している。大和工業と同様に、ヨドコウとも基本的に内需が減る中で健全な競争軸を作っていくというコンセプトがベースにあり、それに沿う形で協業として何ができるのか、マクロ、ミクロの観点で検討を進めている」(植木 美知也)
















