2025年10月9日

新社長に聞く/日本鋳造/佐竹義宏氏/積層造形 事業化へ加速/半導体装置向けも全社横断拡販

大手鋳鋼メーカー、日本鋳造の新社長に2025年6月25日付で佐竹義宏副社長が昇格した。佐竹社長に抱負や方針などを聞いた。

――就任の抱負から。

「前社長である鷲尾勝特別顧問が敷いた路線を踏襲し、蒔いてくれた種をしっかり刈り取っていきたい。社長就任後は『安全』『一体感(ワンチーム)』『ボトムアップ』『バット・ニュース・ファースト』『時間と期限を守る』『基礎体力向上』『リクリエーション』という7つのスローガンを掲げた。安全を最優先するのは当然のことだが、横の連携を密にして一体感をより醸成するとともに、風通しがよく、ボトムアップによる提案・改善が進むムードを作り上げる。また問題発生時などでの迅速な報告・連絡・相談を徹底して組織でしっかり対応するようにし、時間と期限を守ることで業務にメリハリを付け、製造実力など会社としての基礎体力を高める。従業員のモチベーションをアップするため、社内イベントなどリクリエーションも増やしていきたい」

――「一体感」では就任後間もなく、横断新組織を立ち上げた。

「3D積層造形の早期事業化を図るため、25年4月1日付で『3Dプリンター活用推進チーム』を新設した。これまで低熱膨張合金『LEX(レックス)』を主体に3D積層造形用粉末の開発を手掛け、川崎工場内に専用装置を導入するなど体制を構築した。また熱膨張ゼロ合金『LEX―ZERO(レックス・ゼロ)』を用いた3D積層造形製品が衛星の観測装置で採用されるとともに、3D積層造形の鋳包み材を用いる鋳造方法を実用化するなど知見やノウハウを積み上げてきたが、25年度以降は基礎技術開発のステージから製品化・事業化に向けたステージに移行する。大手都市銀行のアドバイザリーサービスを活用するなど、新規開拓に力を注ぐ。私をトップに開発や調達、営業や管理、設備など各部門から兼任で合計15人がメンバーとなり、横串を通した横断組織にし、フットワークを軽く、事業化に向けてのスピードを上げることで、28年度における3D積層造形事業の粗利益は現行の5倍強となる1億円に照準を合わせる」

――半導体分野でもプロジェクトチームを25年9月1日付で発足させた。

「『半導体向け開拓開発プロジェクト』として、さらなる成長が見込まれる半導体製造装置関連の新規需要家を開拓するため、私をトップとする全社を挙げた戦略的プロジェクトを立ち上げた。中国と台湾を主体とする海外や、国内における需要家へのアプローチを推進し、3D積層造形技術も駆使しながら技術的知見を積み上げ、ニーズを捕捉する新たな制振材や高熱伝導材などを開発することで販路を拡大する。また25年度見込みで売上高10億円、出荷量が300トン程度の『LEX』についても国内外で販売を強化する。28年度をめどに半導体関連の新規需要家向け売上高で、現状よりも1割以上の増加を目指す。3Dプリンター活用推進チームと同様に横断組織にしており、高い頻度でステアリング会議を開き、情報収集から見積り作成・提示、試作に至るプロセスでスピード感を高める」

――取り巻くマーケット環境はどうか。

「鋳鋼品の素形材分野は厳しい。中国経済の減速に加えて米国関税措置の影響もあり、主力の半導体製造装置分野、建設機械分野の需要が大きく落ち込んでいる。EV(電気自動車)が伸び悩んでいる中でEV投資に関連する工作機械やプレス機械のマーケットは以前よりも消極的になってきている。本格的な市場回復は26年度以降になるだろう。エンジニアリング分野は橋梁向け支承や建築物用柱脚の受注が前年同期並みで推移。公共工事などを低予算で抑えることができる補修・保全ニーズが増えており、当社製品への発注も伸びている。大型の新規建築案件と補修案件の設計織り込みに注力している。都市再開発や大型物流施設、データセンターなどで期待される潜在的な建材需要をしっかり捕捉する」

――中期経営計画は2年目に入っている。

「素形材、エンジニアリング両分野の市場環境が大きく変化しており、見直しも視野に検討する」

――川崎工場、福山製造所の稼働状況は。

「23年10月に操業を休止した池上工場は完全に操業を停止し、川崎工場やOEM先に生産を切り替えている。土地はJFEスチールが所有しているが、建屋は当社が保有しており、売却先を探している。設備は老朽化しており、撤去・廃棄する。現行シフト体制下での稼働状況として、川崎工場は8割程度、福山製造所は鋳鉄水平連続鋳造棒「マイティバー」の受注が好調でほぼ100%となっている」

――川崎工場における取り組みを。

「5面加工機や5軸加工機を新設したほか、砂型造型設備のミキサーを更新し、25年8月から稼働を開始した。砂型造型ヤードは2カ所あり、それぞれミキサーを設置していたが、これを集約して最新鋭1基で2ヤード対応を可能にしている。タイミングを見計らいながら、25トンアーク炉の更新も検討する。またスマートファクトリー化を推進しており、自動押し湯切断ロボットと溶接補修ロボット、砂型3D積層造形設備を導入し、製造工程の省人化や自動化を進めている。また東京ガスのエネルギー中央監視システムを採用してエネルギー使用を可視化したことで、使用電力の1割低減を実現しており、さらに追求する」

――福山製造所はどうか。

「10トンの高周波誘導電気炉を新設し、24年8月以降は15トンの低周波誘導電気炉から切り替えている。その結果、溶解効率が3倍になり、生産コストは3割程度下がっている。川崎に続いて、福山でもスマートファクトリー化を進め始めており、タブレット端末を使ってペーパレス化に取り組むとともに、ビジネスインテリジェンスソフトを活用するなど各工程のデータを有機的に解析し、効率化などに繋げていきたい」

――新製品・新技術の開発状況を。

「自社で開発した高強度鋼『TNCM』の3D積層造形用粉末を開発した。『TNCM』は建設機械の足回り用鋳鋼品として需要家に供給してきたが、3D積層造形装置を用いて製造することで、鋳鋼品に比べて結晶粒が微細化し、『高強度×高延性×高靭性×高硬度』を実現するもので、すでに建機の補修部分用として、一部の需要家で採用が始まっている。また、既設の橋梁に設置されている支承に補強部品を取り付けて耐震補強を行う『橋梁用既設支承補強部品(支承補強ブロック)』を首都高速道路と共同で開発した。公共インフラの老朽化が進展すると同時に、メンテナンス人材が不足する環境下で難度の高い既設支承の取替工事を行うことなく、耐震補強が可能になり、橋梁業界におけるスクラップ&ビルドの概念を払拭し、新たな選択肢になる」。

――カーボンニュートラルへの対応は。

「川崎は北陸電力からCO2排出量ゼロとなる再生可能エネルギー由来の非化石証書を使った電力を購入していたが、24年7月には東京ガスから同証書を使ったガス購入を始めており、99・5%のカーボンフリーに達している。残り30トンのCO2排出量削減を目指し、26年に鋳造業界初となるカーボンニュートラル工場を実現する。製造プロセスにおける温室効果ガス排出量(GHG)をゼロとした鋳造品『GREENCASTINGS(グリーンキャスティングス)』は初採用に向けPRを強化している。高意匠性を目的に使われる建築物の鋳鋼品などで需要家にアピールする」

――中国大手鋳鉄メーカーの山東宇信鋳業との鋳鉄製造の技術提携契約については。

「山東宇信鋳業との技術提携は3年契約を更新し、2期目に入った。当社の技術指導を継続することによって、山東宇信鋳業から中国やアジア各国へのOEM供給を拡大する」

――清本鉄工と鋳鋼品のOEM生産を柱とした業務提携をスタートし、また川金ホールディングスとは協業に向けた検討を開始するとそれぞれ発表した。

「リーマン・ショック以降は鋳鋼品の需要が落ち込んでおり、とくに近年は苦戦している。その一方で鋳鋼メーカーは多く、自分たちが生き残るためにどうあるべきかを議論し、清本鉄工さんと川金ホールディングスさんと業務提携を結び、協業することを決めた。検討中のため具体的にはお話しできないが、清本さんには大型の普通鋼鋳鋼品を生産委託しており、業務提携をより詳細かつ具体的に実行する。川金さんとの協業は初めてだが、鋳鋼品と鋳鉄品だけでなく、橋梁用支承製品も対象になるため、楽しみである」(濱坂浩司)

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▽佐竹義宏(さたけ・よしひろ)氏=87年東大院工学系研究科機械工学専攻修了、川崎製鉄(現JFEスチール)入社。千葉製鉄所(現東日本製鉄所千葉地区)に25年勤務し、このうち15年がステンレス、5年は冷延鋼板を手掛けた。本社勤務は10年で、初代の品質保証部長にも。

14年4月ステンレスセクター部長、16年4月品質保証部長を経て、19年4月監査役。24年6月日本鋳造副社長、25年6月現職に就任。

印象に残っているのは、千葉・工程室長時代の10年12月に発生した第6高炉の火災事故。「負傷者はいなかったが、羽口からコークスが流出し、周辺の資機材や建屋の一部が炎上したことで高炉操業が1カ月半止まった。需要家への影響を最小限にするために一致団結し、諦めない気持ちを学んだ」と振り返る。

趣味はゴルフ(HC9)でJFE東日本ゴルフ部の部長を12年務めた。「人間は経験を積むために生まれてきた」が信条。秋田県・佐竹南家21代目当主で、湯沢市ふるさと応援大使。WEB社内報に毎週ブログを発信する。62年9月13日生まれ、埼玉県出身。









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