――鉱物資源を巡る世界の動きと日本政府の対応を。
「大きく2つある。一つは特定国による 高度情報通信網やAI技術の発達に伴い、インフラ設備や半導体に不可欠な銅などの非鉄金属やレアメタル・希土類(レアアース)は各国経済安全保障上の最重要物資の一つと位置づけられるようになった。特に天然資源が乏しい日本では、これらの安定的な海外からの確保と国内リサイクルが不可欠だ。だが、世界的に資源獲得競争が激化の一途をたどる中、核となるべき国内の非鉄製錬企業の事業環境は厳しさを増す。重要鉱物を巡る日本の課題、そして可能性について産官学の関係者に話を聞いた。いる中で、代替供給源を確保していかないといけない。米国、欧州、韓国なども代替供給源形成への政府の支援措置を強化しており、我々も日本勢が供給源を確保できるようJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じた出資や経済安全保障推進法に基づく助成金支援で民間企業の事業投資を後押ししている」
「もう一つが銅を巡る変化だ。電動化の進展やデータセンターの増加で需要拡大が見込まれ、中長期的な需給ギャップが生じるという予想もある。日本が必要量を確保できない状況にならないよう銅権益獲得に向けた予算を確保し、有望なプロジェクトがあれば政府として支援する。加えて、銅製錬は精鉱の委託製錬費を示すTC/RC(製錬マージン)が極めて低い状況にある。製錬能力の急拡大で精鉱需要が増える中国製錬とチリ鉱山のチャンピオン交渉に引きずられている。鉱山と製錬業がウィン・ウィンになる持続可能なTC/RCを確保するため、昨年は政府としてスペイン・韓国政府とともにメッセージを出した。本年3月にはカナダで日本主催の国際的な官民合同対話を開催。持続可能なTC/RCについて積極的な議論が交わされ、その後の企業間の個別買鉱交渉の際の背景として貢献できた部分はあるのではないか」
――中国が希土類(レアアース)、タングステンの輸出規制を行っている影響は。
「多くの企業から相談が寄せられている。影響度は鉱種により異なるが、様々なサプライチェーンで必要な鉱物が確保できず、産業活動に影響が出ているという声も承知している」
――中国は対日デュアルユース規制も行っている。「それにより対象企業は軍事・防衛用には使われないという証明をする必要性が出てきたため、許可を得るための作業や提出物が多くなった」
――希土類の調達では、JOGMECも参画する豪ライナスや仏カレマグのプロジェクトが進展する。将来的に日本の必要調達量をカバーできるか。
「ライナスとカレマグがしっかり立ち上がれば、相当量は賄えると思う。ライナスからは昨年10月以降、重希土類のジスプロシウムとテルビウムが日本に入ってきている。これは特定国外では初の重希土類の分離・精製まで含めた生産物であり、一つ風穴が空いたと言える。カレマグは2027年の生産開始予定で、これも他国のプロジェクトと比べかなり速く進んでいる。両方とも特定国が輸出管理する前に、国の支援を含めた投資決定をしてきた案件だ」
――重要鉱物の中国などへの特定国依存は将来的にどこまで下げるのが望ましいか。
「それは難しい質問だ。まず特定の国への依存度下げないといけないというのは事実。どこまで代替プロジェクトに切り替わっていくかは、立ち上げるプロジェクトによるところもある。先日公表した官民投資ロードマップ案では、30年に重要鉱物の国内必要量を代替プロジェクトで確保していく目標を掲げる。政府としては必要量を供給できる規模のプロジェクトが立ち上がるよう、しっかり取り組んでいく」
――米国をはじめ、希土類開発を促進するためプライスフロア(最低価格)の議論も出始めている。
「日本と米国、EUのステートメントでもそういうことを含め議論していくことは決まっている。米国の提案が発端だ。様々な代替供給プロジェクトを進めようとしたときに特定国の安い原料が入ってくると、需要家が代替供給源から買い続ける見込みが立たない。それにより資源開発投資やプロジェクトの立ち上がりが阻害されるのではないかという問題意識がある。同志国以外からの調達には関税など何らかの措置を取ることで、プロジェクトが立ち上がるようにしようというのがプライスフロアの考え方だ」
――最低価格は投資側のリスクを軽減できるが、市場原理との関係もある。
「最低価格制度の趣旨は良く分かるし、議論には前向きに応じるが、様々な留意点はある。まずは代替供給源が確保されていない中でそういう措置を取っても仕方がない。多くの資源国と消費国に参加してもらうということも大切だ。上流の鉱物生産のコストが上がる世界になるため、中下流の製品の国内生産にコスト高の悪影響が出ないようにする措置も必要になるとなど、幅広い観点で検討・議論はしていかねばならないと考えている」
――日米の投資イニシアチブでは日本企業が参加する銅やニッケルのプロジェクトがいくつか指定された。重要鉱物確保で米国と協力するメリットは。
「サプライチェーンは各国に閉じた話ではない。米国と日本は自動車などでのサプライチェーンでつながっている。特に現在は、経済安全保障の観点からも日米が連携して様々なプロジェクトを推進し、代替供給源を持つことで日米のサプライチェーン全体を強化するのは極めて大事だと思う。米国は資金や国内需要も大きい」
――政府はアジアやアフリカの資源国との外交も強化している。
「資源開発では現地政府の許認可やファイナンス支援の問題も絡んでくる。外交を通じて資源国政府にしっかりアプローチし、関係強化することは極めて重要だと考える」
――アフリカは資源開発の有望エリアだが日本の民間企業は投資に慎重だ。「民間企業はポテンシャルというプラス面と、リスクというマイナス面の兼ね合いで投資を判断する。世界の鉱物埋蔵量でアクセスできるものが限られてきている中、政策サイドからするとポテンシャルがあるところに入っていって鉱物を確保するのが望ましい。そこでリスクが大きければ政府がリスクをシェアして、後押ししていくことが必要かと考える。日本企業からすると、アフリカではこれまで鉱物資源プロジェクトからの撤退の歴史があり、投資制度やインフラの未整備、政策変更リスクといった課題もある。政府としては民間企業が前向きに検討できるよう、JOGMECを通じた出資割合を上げて支援するほか、何か困ったことが起きた時に官・官で議論する場を持っておき、必要なことをしっかり言える関係をつくることも大切。投資協定による政策変更リスクの軽減、ODAを通じたインフラ整備支援なども必要だ」
――国内における製錬所の役割をどう考えるか。
「日本の銅生産は年間約150万トンで、内需が80万―90万トン。輸出ポジションにあるが、需要が今後拡大していく中で、製錬プロセスを国内にしっかり維持していくのは重要だ。製錬が衰退すれば大事な銅を他国から買うことになり、それは経済安保上の大きな問題となる。TC/RCに対する取り組みもそうだが、政府がこのほどまとめた循環経済行動計画でもうたっている通り、リサイクルの前処理に対する支援なども行い、日本の銅製錬を維持することは重要な政策課題だ」
――製錬所はベースメタルだけでなくレアメタルなども回収している。
「銅、鉛、亜鉛、ニッケルの生産はもちろん大事だが、日本の製錬は長年かけてネットワークをつくり、副産物として多くのレアメタル、重要鉱物を回収する技術も確立してきた。この製錬ネットワークは経済安保の観点でも大切だ」
――欧州をはじめリサイクル資源の囲い込みも進んでいる。国内でリサイクル原料を確保するための仕組みも重要では。
「不適正ヤードを通じた海外へのリサイクル原料の流出は止めないといけない。環境省とともに不適正ヤードを取り締まる制度導入に取り組んできた。一方で日本からの輸出を全部止めるような措置を行えば、他国の囲い込みに拍車をかける。日本の製錬は海外から原料を調達して成り立っている。欧州で囲い込みの動きもあるが、それは同志国に対する措置として適切かどうかも含めて議論していく必要があると思う。環境省は東南アジアなどでリサイクル制度のキャパシティ・ビルディングに取り組んでいる。こうした新たな方策も考えていかないといけない」
――将来的な希土類の国内製錬は。
「分離・精製の可能性はあると思う。放射性物質を山元で落としてこられれば制度的にはできる。企業の方々が採算性もみてできると考えれば申請が来るだろうし、実現性があると判断すれば我々も支援していく」
(田島義史、鈴木大詩)






















