「2025中長期経営計画で進めてきた収益構造強化については、厳しい事業環境の中にあってその戦略の方向性の正しさと実効性を示した1年だったと認識している。計画策定時点では、国内需要は19年度5900万㌧から25年度5400万㌧へ減少する前提としていたが、実際には4900万㌧まで落ち込むなど、事業環境は想定を大きく下回って推移した。世界全体でも、中国需要の減少を主因に世界の鉄鋼需要も減少に転じた。インドをはじめとする新興国では需要の拡大が見られるものの、その伸びは中国の減少分を十分に補うには至っていない。中国の鉄鋼の需給ギャップは1億2000万㌧に拡大し、その輸出が各地域の需給を悪化させる中、アジアの熱延コイル主原料マージンは当初想定のトン200㌦に対し、実績では140㌦まで低下した。こうした環境は当初想定を大きく下回ったというのが実情だ。こうした中でも、国内では生産設備構造対策による約1500億円のコスト削減を当初計画通り実現するとともに、注文構成の高度化、紐付き販売価格の適正化など追加の施策を進め損益分岐点を4割引き下げた。加えて、グループ会社の再編の推進、USスチールの買収、原料事業における権益投資の拡大、流通を自らの事業とすべく行った日鉄物産の子会社化・非公開化などにより、事業ポートフォリオの幅と厚みを拡充し、より強靭な事業構造への転換を進めてきた。その結果、実力ベースの連結事業利益は安定して6000億円以上を確保可能な水準に到達し、収益力は過去と比較して一段高いレベルへと引き上がり、世界の同業他社と比べ相対的に高水準の収益力を実現した」
「25年度は関税影響に加え、中国の過剰生産・過剰輸出や国際市況の低迷が継続する中、北日本製鉄所室蘭地区の設備トラブルを中心に約700億円の一過性のマイナス影響が発生した。一方で、東日本製鉄所鹿島地区の鉄源1系列休止をはじめとする構造対策により400億円の効果を創出するとともに、内需の減少を一過性ではなく構造的な変化と捉え、修繕費の圧縮など固定費削減施策をさらに一段緊急的に追加し実行した。この結果、実力利益は6504億円と減益にはなったが、一過性影響を除いた水準では7200億円と評価しており、収益基盤自体は着実に強化が進んでいる。また、当期利益については、前回見通しでは赤字予想だったが、原料価格の上昇および円安による在庫評価差や為替差益のプラス影響により、171億円の黒字を確保できた」
――26年度の事業環境認識は。内需は4850万㌧と微減を予想している。
「土木の需要は高度経済成長期に整えたインフラの更新や激甚災害の対策が続き、少子高齢が進む中にあっても減少するとは考えていなかったが、19年度以降減少を続けている。国土強靱化や都市部の再開発など土木・建築の案件は多いが、人手不足とコスト増といった社会的課題からプロジェクト全体が先送りになっている。自動車、建機、産業機械など他製造業も輸出含め苦戦している。現地生産化の進展などで製造業の減少は想定していたが、土木・建築が想定以上に減っている」
「数量面では、単独粗鋼生産は対前年111万㌧増の3500万㌧を予想しているが、これは主として前年度の室蘭トラブル等からの正常化によるものであり、実勢としてはほぼ横ばいと見ている。鋼材出荷は34万㌧増の3150万㌧を見込んでいるが、粗鋼生産との増分の差は在庫の回復によるもの。前年度は室蘭減産に対応するため在庫を取り崩し、当社グループ全体で出荷対応してきたが、現状は標準在庫を下回っていることから、正常操業のもとで適正水準への回復を進めていく」
――中東情勢の影響を第1四半期に500億円程度と試算している。収束の時期はみえないが、大きな影響を受けることに。
「一般炭や重油、LNG、合金鉄などのコストが上昇しており、フレートの上昇も影響している。加えて、塗装・洗浄剤不足による工程停止やヘリウムの調達難による試験分析の停止などの生産・出荷への影響もリスクとして懸念している。鋼材出荷については、熱延などの薄板やシームレス鋼管の中東向けの輸出が滞っている。中東は大きな経済圏であり、自動車や機械の輸出減少も鋼材需要減につながると見ている。また、中東の鋼材輸入は年2900万㌧と世界全体の13%を占めており、うち最大の輸入元となる中国材の流入先の変化も含め、不透明な要素が多い状況。こうした中で、中東情勢による当社の損益影響は第1四半期で最大500億円、そのうち出荷影響を100億円と見込んでいるが、迂回ルートでの出荷などにより影響はミニマイズ可能と考えている。グループ会社での影響は100億円、直接のコスト増は300億円を見込んでおり、圧縮に努めるとともに価格への転嫁を進めていく。現時点で製鉄所の操業自体への直接的な影響は生じていない」
――市場は厳しいが、26年度は増益を予想している。主な改善要素は。
「実力利益は7000億円以上を見込んでいるが、上期は厳しい環境が続くとみており、3000億円にとどまる見通し。これは、25年度下期の実力利益3047億円と概ね同水準だ。上期については、USスチールの利益700億円が加わる一方、事業環境の悪化を織り込んでおり、マージン・構成悪化によりマイナス600億円の減益要因を見込んでいる。具体的には、収益性の高い電磁鋼板が在庫調整局面に入ることに加え、エネルギー用のシームレス鋼管が中東影響も含めて減少している。もっとも、電磁鋼板の在庫調整は一時的と見ており、シームレス鋼管についても下期以降に案件の回復を見込んでいる。グループ会社も季節要因で上期は減益となるが、USスチールの寄与により全体として3000億円水準を維持する見通し。下期は4000億円を見込んでおり、最大の増益要因は約1000億円規模の営業対策だ。グループ一体での拡販および数量対策の効果が進展するとともに、前中長期経営計画で進めてきた国内グループ会社の子会社化や再編によるシナジーの発現が拡大すると見ている。これらグループ一体での営業対策は、2030中長期経営計画における重要な施策の一つであり、完全子会社化や直営化を通じた営業連携の深化を進め、需要の取り込みを進めていく。下期は年率で8000億円以上を目標に取組み、実力損益1兆円への足掛かりとしたい。セグメント別では、鉄グループ会社の利益は上期750億円から下期1100億円へと増加し、通期で1850億円(前期1838億円)を見込む。また、USスチールやAM/NSインディアを中心とする本体海外事業も収益が改善しており上期900億円、下期650億円、通期で合計1550億円(同384億円)への拡大を見込んでいる」
――マージン改善に向けた値上げの進捗は。
「市況分野においては、マージンの圧縮を背景に、当社として価格改定に取り組んでいる。ご指摘の値上げについても、国内店売り、リロール、パイプ、軽量形鋼向け薄板をはじめ、幅広い品種・分野で実施している。これらの値上げについては、再生産可能な価格水準確保の必要性を丁寧に説明しながら浸透を図っている。なお、ヒモ付き分野では適正マージン水準を引き下げる考えはなく、価格先決め後のコスト変動分については、タイミング差は発生するものの基本的には価格に反映される仕組みとなっている」
――USスチールは25年度に56億円の赤字から26年度に1000億円以上の利益と大幅な改善を予想している。
「25年度が前回予想ゼロから赤字へと下振れた主因は、1―3月の歴史的寒波の影響が大きい。熱延市況は昨年後半以降上昇し、足元ではショートトン当たりで1000㌦を超える水準に上伸しているが、タイムラグもあり、25年度の業績への市況上昇の貢献は限定的であった。26年度については、上期は1000㌦超の市況を前提に700億円の利益を見込む一方、下期は輸入材の流入などの影響を織り込み、市況下落を前提に300億円としている。通期では平均900㌦台半ばの市況を想定している。年度での増減要因としては、この市況回復により1200億円の増益要因がある一方、調達コスト上昇を中心とするインフレ影響により約1100億円の減益要因を見込んでおり、外部要因による純増益は限定的だ。これに対し、実力改善としてコスト改善で400億円、電炉ミルビッグリバー2の稼働率向上で600億円の増益を計画しており、これら自助努力が収益改善のドライバーとなる。中長期的には、USスチールの成長は設備投資と操業・品質改善によるシナジーの2本の柱で進めていく。2035年に向けてEBITDAベースで30億㌦規模の改善を見込んでおり、このうち設備投資効果が25億㌦、操業シナジーが5億㌦となる。設備投資効果については工期の関係から段階的に発現し、2030年時点ではその一部、その後数年でフルに寄与する見通しだ。現在、当社からエンジニアや操業支援者を中心に100人超を派遣し、建設企画支援、工程間連携、品質・歩留改善などの課題に取り組んでおり、その進捗を週次でフォローしている。財務からも10人派遣し、コスト構造の可視化などを進めている。設備投資によって品質は大きく向上していく見通しだが、その効果が本格的に発現するまでの間も、操業改善や品質改善の取組みを前倒しで進めている。現時点では自動車鋼板など高付加価値品の一貫歩留が低水準にあり、コスト増の要因となっている。このため工程間および製販の連携、工程管理、デリバリー管理など260項目の課題に取り組んでおり、26年度は操業シナジーとして2億㌦の効果発現を見込んでいる」
――インド事業の改善が見込める。欧州事業は大きな手を打った。海外事業の成長の見通しは。
「インドについては、事業環境は改善方向にあり、26年度は一定の利益回復を見込んでいる。22年度以降、中国からの輸出増によりアジア全体の市況が押し下げられ、インドにもおいても輸入材の流入や国内能力増強により需給が緩和し、価格が上がらずマージンが低下していた。足元ではセーフガードの実施により輸入が抑制され、需要も拡大していることから、マージン改善を通じた収益回復が期待できる環境になっている。加えて、めっきラインの導入により自動車分野への本格参入を進めており、品種の高度化も収益拡大に寄与していく。欧州については、関税・セーフガードやCBAMにより域内市場が一定程度保護されており、インサイダーとして事業展開することで需要が取り込める市場だ。製造業の重心が東側にシフトしつつあり、東欧は自動車、家電、エネルギー関連企業が集積する需要立地となっている。USスチール傘下のスロバキアのUSSKはその中核拠点と位置付けている。当該拠点を当社の直接保有(NSSKに改称)とし、連結経営体制を強化することで、欧州事業の収益力向上と事業規模拡大を図っていく。こうした取り組みを踏まえ、当社は、米国、欧州、インド、タイの4地域を海外重点地域と位置付け、新たな地産地消体制を構築していく。また、山陽特殊製鋼の統合を通じて、スウェーデンおよびフィンランドに製造販売拠点を置くオバコを直接管理下に置くことで、欧州においては鋼板はNSSK、条鋼はオバコとするバランスの取れた鉄源一貫体制を構築し、欧州全体を一体でマネジメントしていく」
――鉄のグループ会社の収益貢献は。日鉄ステンレスを25年4月に統合した効果も得ているのでは。
「貢献度が大きいのは、日鉄物産、日鉄テックスエンジ、黒崎播磨、山陽特殊製鋼、日鉄建材など。これらグループ会社と一体的に事業運営を行うことにより、収益基盤の強化が進んでいる。グループ電炉についてもコスト削減が進み、堅調に推移している。とりわけ山陽特殊製鋼との統合については、従来のグループ連携の枠を超え、製造・技術、営業、開発を一体化することで、棒線・特殊鋼事業の競争力を抜本的に強化していく。完全子会社化とは異なるステージとして、最適生産体制の構築を進めており、大阪地区の特殊溶解品、自由鍛造の山陽へのよりスピーディーな集約等を通じて早期の効率化と高付加価値化を図る。同社の高付加価値の特殊鋼製品事業、高純度鋼や特殊溶解材、素形材の技術力、製品力をさらに強化するとともに、当社との一体運営により商流の拡大を図る。山陽が有する欧州、インド、メキシコの拠点も含め、グループ全体のネットワークを統合することで、海外事業の強化と新たな事業機会の創出を加速していく。日鉄ステンレスについても、統合後は、一体運営によるシナジー発現を進めており、コスト競争力の強化やライン最適化を通じて、さらなる収益改善と次の成長につなげていく」(植木 美知也)























