2021年6月16日

伊藤忠丸紅鉄鋼「第7次中計」 塔下辰彦社長に聞く 鉄鋼の新規需要創出 重要 グローバル網強化、機能磨く

――ポストコロナ時代を見据えた経営環境認識から。

「国内の鉄鋼需要は、人口減少とともに少しずつ減っていく。鉄鋼メーカーは先行して設備調整を本格化しており、2030年に向けて全国粗鋼生産量が8000万トン規模に縮小していく覚悟も必要だろう。同時に脱炭素社会への対応を迫られている産業界の構造転換が進む。ただ当面は国内鋼材消費が6000万トン規模に戻り、9000万トン台の全国粗鋼生産が続くとみている。この猶予期間を活用して、市場規模と需要構造の先行きの変化を見据え、資産の効率化・適正化を進めつつ、未来に向けての成長投資を実行していかなければならない」

――「第7次中期経営計画」(2021-23年度)の基本方針を。

「産業構造転換による需要動向の変化を見据え、新たな時代において持続的成長を果たすための収益基盤を構築する。伸ばせる分野、強みを持つエリアをさらに強化する。サービスが陳腐化しているところは再度、機能を磨き上げていく。例えば自動車分野は市場構造変化が著しいが、国内外の事業基盤を活用しながら3年前に立ち上げたEV戦略室の機能をフルに引き出していく。再生エネルギー分野では、太陽光発電に加えて、洋上風力発電市場へのアプローチを本格化する。まったく新しい市場へのアプローチによる鉄鋼需要の創出も重要なミッションと考えている」

――新中計のキャッチフレーズは。

「『MISI as Resilient towards 2023』。100年に一度とされる大変革期を迎えており、耐性を引き上げ、復元力を高めていく必要がある。単体人員は約950人で7割がプロパー社員となっている。変化が激しい時代において、10-20年後も勝ち残り続ける企業とするためリスクを取れる体制を整え、果敢に挑戦を続けていく」

――収益目標を。

「連結純利益は18年度が242億円、19年度は223億円で、コロナ禍によって需要が落ち込んだ20年度は174億円に後退した。今中計では200億円以上の純利益を維持したいと考えている。得意とするトレード収益を拡大し、事業収益を改善する。連結取扱量は2200万トン規模で、輸出・海外取引が65%、国内は35%。国内を維持し、海外の地場取引、三国間を増やすことで2300万トン+αを目指す。事業会社は110社あり、20年度は赤字会社が前年度の12社から30社に増えており、10社未満を目標に収益力強化に取り組む」

――財務指標については。

「18年度に2・1%だったROAが1・9%、1・5%と低下してきた。総資産、純利益とのバランスを意識しながら、早期に2%台に戻したい。総資産は1兆2000億円から1兆1000億円に圧縮し、自己資本比率は24%、26%、28%と上昇。ネットDEレシオも1・5倍、1・4倍、1・1倍と改善している。総資産規模は大きく変えず、より筋肉質な事業基盤を構築し、A格相当の格付けを維持していく」

――投融資スタンスは。

「計画は年間100億円程度。積極的な事業投資を続けてきたが、必ずしも期待通りの成果に結びついていない。事業撤退による資産の入れ替えを含めて、ネットで3年間300億円と考えているが、成長機会があれば枠にとらわれず大胆に経営判断していく」

――収益基盤の再構築について、海外戦略から。

「日本の高炉メーカーの海外事業向けの原板供給や垂直分業はその役目を変えつつある。海外においても脱炭素社会へのシフトや自国産化の流れなど市場環境は大きく変化している。課題を多く抱えていた中国事業は撤退、資産の入れ替えを進めている。ASEANは薄板、建材ともにサプライチェーンの変化も見据えた事業構造転換を急ぐ。北米、欧州、アジアなどでグローバル展開する鋼管ビジネスは、オイル・ガスなど化石燃料のマーケット構造変化に合わせて体制を再構築する」

――稼ぎ頭の北米は主力の建材、鋼管で明暗が分かれる。

「米国はコロナ後の景気回復が順調で、建材分野は商業施設向けのCDBSが好業績を維持し、住宅資材を得意とするQE(クォリティ・エッジ)も収益が好転している。鋼管分野は中長期的な市場構造変化を見据えた対応策を進めている。バイデン政権は大規模な景気刺激策を掲げており、カントリーリスクも低下する傾向にある。強みを発揮できる重点市場と位置付け、さらなる成長戦略を描いていく」

――鋼管事業はカナダで先行して手を打った。

「米国の鋼管事業会社MITI100%出資の油井管問屋、ホールマーク・チューブラーズの再編統合を決めた。北米の金属製品流通・加工最大手のラッセル・メタルズの100%子会社で、カナダの油井管・ラインパイプ問屋、トライアンフ・チューブラー&サプライとホールマークを事業統合してトライマーク・チューブラーズを折半出資で設立する。米国は鋼管問屋の機能集約が課題で、スーナー、CTAPの大手2社はオペレーションの一体化を加速させている」

――インド以西について。

「インドでは共同出資のコイルセンター事業を軸に据え、JSWスチールとの連携を強化していく。中東のラインパイプ合弁、アルガービアは営業生産を開始したものの事業計画が遅れ気味であり、効果的な手を打っていきたい。サブサハラに強みを持つアフリカは、リローラーなどの顧客基盤を活かし、需要創出に向けた新たな取組を検討していく」

――建設鋼材市場は、米国のみならず、アジアで大きく広がり、国内でも安定している。

「国内は伊藤忠丸紅住商テクノスチールがしっかりカバーしている。海外では丸紅建材リースとともに重仮設リースの合弁会社を中国に設立したが、ファブデッキなども含めて、ESG経営にマッチする商品・ビジネスを大きく広げていきたい」

――鉄鋼業は、脱炭素社会への対応を迫られている。

「高炉メーカーのプロセス転換には、あらゆる形で協力していく。電炉メーカーのビレット・製品輸出ニーズにも応えてきている。海外で地産地消が進むとしても、需給ギャップや価格差をトレードで補うニーズはなくならない。伝統的に得意なビジネスモデルであり、グローバル・ネットワークとスケールを維持し、トレード機能をしっかり果たしていく」

――米国、中国では、自動車用のアルミパネル加工も本格化している。

「EV化の加速によって車体軽量化ニーズが高まり、アルミ化は進展している。一方、スーパーハイテン鋼板の機能向上、ホットプレス技術の浸透などによって、鋼板に回帰するケースも見受けられる。米国、中国、日本で、スーパーハイテン、アルミパネルの加工ニーズに応えていく」

――サンコールに一部出資した。

「伊藤忠商事から株式12%相当を譲受した。サンコールは金属の精密塑性加工技術や製品開発力をベースに特殊ばねやEV用の精密加工部品を製造しており、伸びるEV関連市場での協業を広げていく」

――電磁鋼板も需要が拡大しており、商社としては攻める分野。

「モーターコア製造事業をグローバル展開するイタリアのユーロ・グループと提携関係を構築している。世界最大の自動車生産国である中国に合弁事業を設立し、EV駆動用モーターコアの現地供給を開始している。精密金型を得意とする黒田精工に一部出資し、新たなビジネスも立ち上がりつつある。中国と同様にインドでも切断、プレス、積層、ラミネーションの加工体制を整えていきたい。設備投資規模、契約・在庫などでリスクが大きいビジネスモデルではあるが、需要家ニーズに応えられるよう体制を強化していきたい」

――洋上風力発電関連の鉄需も期待されている。

「素材供給、組み立てなど幅広い角度でチャンスがあるが、工程管理など高度な機能を求められることから、その経験とノウハウを積み重ねている。株主が海外、国内で発電事業を手掛けており、連携を強化していきたい」

――国内は需要構造変化を見据えた投資が続く。

「高炉メーカーは設備休止という極めて重い経営判断を下しており、流通ももう一段の構造改革を迫られている。薄板関連では、紅忠コイルセンターホールディングス設立、KSサミットスチールの譲受などを通じて機能向上と競争力強化を図ってきている。東京スチールセンターでは、IoTやビッグデータを活用した新たなシステムの運用を開始している。ハイテン化、コイル単重増、システム高度化などで設備・システムの更新投資規模が拡大している。市場構造が大きく変化しており、従来通りの対策では勝てないし、かといって市場を奪い合うことによる成果は見込めない。手遅れにならないよう、知恵を絞り、他商社との連携も含めて判断していく」

――企業理念を『鉄を商う。未来を担う』に改定した。

「創立20周年を迎え、10年後にはプロパー社員が経営を担うことになる。2030年を見据え、社員の声を集めて、あるべき企業像を描いた。設立時からパイオニア精神として継承する『探求』『当事者として』『挑む』『先手』『自由闊達』『個の尊重』『やり抜く』などのキーワードや挑戦し続ける姿勢を全グループ社員で改めて共有。新たなビジョンを『私たち一人ひとりの成長が、会社の成長と重なり合い、かかわるすべての人とともに、より豊かな社会を実現する』、ミッションを『鉄鋼流通のフロントランナーとして進化し続ける』、バリューを『お客さまの未来に貢献する価値の創造』と定めた。当社のルーツである近江商人の商いの基盤、『売り手』『買い手』『世間』に『社員』を加えた『三方+1によし』の精神は継承し、鉄を商い、未来を担っていく。鐵から離れたところのビジネスは考えていない。産業構造が大きく変わるタイミングだからこそ、原点に立ち戻り、丸紅、伊藤忠商事の両株主との連携を徹底し、新たな鉄鋼需要を捕捉していく」(谷藤 真澄)

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