「一番大きなテーマになったのは例えばリチウム資源の国有化など自国の権益と利益を重視する資源ナショナリズムの強まりだ。日本のように資源を買う側の立場では資源ナショナリズムの動きに否定的だが、後述するJICAの資源人材育成プログラム『資源の絆』の研修生と話をしてみると決してそうではない。むしろ資源ナショナリズムは資源保有国として当然の権利という考え方がある」
「関連して資源の輸出規制や輸出税引き上げなど安全保障の色合いが強い国家管理型の政策も打ち出されるようになった。その代表例が中国のレアアース輸出規制だ。さらに環境影響評価の厳格化や地域住民への配慮、人権や労働基準、持続可能性の確保といったESGに配慮した開発ルールの整備も求められるようになった」
――資源保有国は製錬所の建設など下流工程の育成による付加価値化を計画している。
「インドネシアなどがそうした考え方を持っている。かつてモンゴルからも同じような相談を受けたことがあるが、自国の産業構造をよく考える必要がある。産業が未発達のところに製錬所を建設しても単純に銅を輸出するだけ。現在の製錬業界を見れば理解できると思うがそれは決してプラスではない。日本のように川下の産業が多くあり銅の消費に困らない産業構造でなければ製錬工程は成立しないだろう」
――日本の鉱物資源確保の現状や課題をどう見ているか。
「ほぼ全量を海外からの輸入に依存している日本にとって資源確保政策は重要だ。最近は単なる産業用の資源確保ではなく、国際政治が大きく関係する経済安全保障の観点が前面に出てきた。目標は先端産業やカーボンニュートラル実現に必要な重要鉱物の安定供給になる。課題は需要増大と金属価格の急騰などの価格変動、前述した資源ナショナリズムへの対応が上げられる。レアメタル・レアアースなど一部鉱種の供給集中と地政学リスク、新規鉱山開発のコスト増や人材不足なども課題になる」
――これらの課題に対して日本政府はどのような対応をしているのか。
「海外権益を確保するために経済産業省やJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)などが資源外交を展開。供給源の多角化のために政府間協定や投資協定、リスクマネー供給などを通じて民間投資を支援している。南アフリカのPGM(白金族)やナミビアのレアアース探査はそれなりに効果が出ているし、ザンビアの銅探査などもこれに続くのではないか。国内資源であるリサイクルについては技術開発や各種リサイクル法の整備などを通じて産学官の連携が図れている。レアアースなどに対する代替資源の研究開発も重要な取り組みだと考えている」
――資源確保は国際連携も大事になる。
「国際連携は重要度を増している。今回の中東危機で石油の備蓄が脚光を浴びている。個人的な提案だが、中国の輸出規制や独占支配に対応できるようレアメタル・レアアースなどを東南アジアの同志国が共同備蓄する制度を創設しておくのも有効だろう。資源地政学の視点からどの国との連携を軸にサプライチェーンを構築するのかが、これからの重要な課題になる。JICAはそこを考えながら資源の絆事業を通じて資源国との関係構築を拡大している」

資源の絆10周年の集合写真
「カナダのジュニア・カンパニーなどが日本国内で金の探鉱を行っている。日本はかつて環境に苦労した経験があるので鉱山開発に前のめりできない現状があるが、本当に開発できれば地域振興につなげることができる。海洋資源も注目を集めているが、まだまだ時間がかかる。海底にある原鉱を陸上の製錬所に持ってくることが最初の課題になる」
――日本企業の鉱物資源関連事業に対する課題は何か。
「レアメタル・レアアースのように特定国に頼っている鉱物資源は地政学的なリスクがあるため調達先の多角化が必要だ。調達先の多角化に貢献するため、JICAはマレーシアやアフリカで、レアメタル・レアアースの調査を進めている。銅については中国による経済性を無視した鉱石確保戦略で製錬マージンが抑えられ日本の製錬所が危機に直面している。鉱石供給元を奪われると日本の製錬業は壊滅するため国の支援が必要だ。同じ立場にある国を巻き込んだ国際連携で対応する必要がある」
――鉱山生産のコスト増も資源確保に立ちはだかる障壁だ。
「環境対応コストの増大や価格変動が大きく投資回収の見通しが立てにくいといった課題がある。既存の海外鉱山の資源量も減少傾向にある一方、新規鉱山は奥地化・深部化しており鉱石品位が低下している。それに伴って不純物の含有量が増えている。条件が悪化する中で開発コストは増加傾向にあるため、日本企業が鉱山権益を確保するには公的機関の支援や政府間・企業間の国際協調が重要になると考えている」
――環境面での対応も求められる。
「カーボンニュートラルに向けて採掘から製錬までの段階で化石燃料への依存度を減らす必要がある。環境面ではリサイクルによる資源確保は重要な取り組みだが、高度な技術や設備投資が必要で現状では回収精製コストを考えると必ずしも持続可能なビジネスとして成立しにくい面がある」
――鉱物資源分野におけるJICAの国際協力の取り組みを。
「JICAは『開発途上国の持続的な鉱物資源開発・管理』と『国際市場への安定供給』を目標に掲げている。国際市場への安定供給が達成されれば日本の安定確保にもつながるという考えだ。鉱物資源分野の協力方針はハードとソフト両面での投資環境整備と人的ネットワーク強化で、次の4つの重点分野に整理される。鉱業開発戦略・法制度、鉱物資源管理、鉱山保安・環境対策、周辺インフラ・地域開発だ。これらを技術協力、有償資金協力、無償資金協力などのスキームと組み合わせて実施すること、及び資源保有国の親日派や知日派人材を育成することだ」
――この考え方が「資源の絆」につながった。
「これらの技術協力を資源国に根付かせるには行政官や技術者の育成が重要だ。さらに親日派が増えることで日本の鉱物資源の安定確保につなげることができる。2014年に創設された資源の絆事業は資源保有途上国の鉱業行政官、大学教官・研究員を日本の大学の大学院に招聘し、研究する機会を与えると同時に、工夫された複数のプログラムを受けさせる。卒業後は資源を通じて出身国の発展に貢献するスキームだ」
「資源の絆事業は26年4月までに32カ国から246人を受け入れた。今後も毎年20―25人を受け入れる予定だ。卒業生の中には鉱山局長が2人いるなど、それぞれの出身国の大学や行政で活躍している。日本にしばらく残って大学教官や研究所の研究員として活躍する人もいる。世界の資源国をカバーする32カ国246人のネットワークは凄いものだと思う。今後は彼らの活躍のフォローアップに注力していく」
――日本の大学の人材教育の現状と課題はどうか。
「かつて国内に鉱山が多数あった時には全国の大学に資源系学部・学科があった。鉱山が激減した現在では特に探査、開発、選鉱、製錬の全ての分野をカバーできるのは秋田大学、北海道大学、九州大学に限られる。学科の縮小が教員不足と学生の志望者減少につながっている。企業は高度な専門性と実務経験を持つ人材を必要としているが、大学側は技術偏重で資源開発プロジェクト全体をマネジメントできる人材育成の視点が欠けている。経済・法制度、リスク管理などの教育が手薄だという指摘もあり秋田大学ではこの分野を対応している」
――これらの課題をどう解決する。
「教員不足には外国教員の採用で補う必要があるだろう。学生の志望者を増やすには日本鉱業協会やJOGMECの取り組みにあるように、中高生への資源分野のPR活動を通じて興味を持ってもらうことが大切だ。大学のカリキュラム改編や専門教員の採用や教官の増員、外部の実務教員の招聘、予算の確保、留学生と日本人学生の交流拡大なども必要だと考えている」
――アフリカの鉱山で働いた経験がある。アフリカの資源開発の現状をどう見ているか。
「銅やコバルト、リチウム、レアアース、白金族など現代社会に必要不可欠な資源が豊富にある。このため中国やインド、欧米、中東の資本が参入し、鉱山だけでなく製錬や加工設備にも投資をしている。比較して日本企業は1歩遅れを取っている印象だ。資源ナショナリズムの観点では未加工鉱石の輸出規制や国内での製錬・加工義務化が進んでいる」
――課題と対応策は。
「アフリカ側から見ると、価格変動で経済が左右されやすいことや、鉱石(精鉱)での輸出が多く十分な付加価値を自国に取り込めていないのが課題だ。投資側にとってみれば輸送や電力などのインフラが脆弱だったり、政権交代や政策変更、ガバナンス不全、治安問題などの課題もありプロジェクトリスクが高い。こうした課題に対してはJICAのような政府系機関や国際機関による産業政策アドバイスやガバナンス指導、人材育成を行っていく。鉱業、エネルギー、運輸インフラ、工業団地造成などのパッケージプロジェクトの提案が有効になるだろう」
――日本企業はアフリカで資源を確保できるのか。
「南アの白金族やナミビアのレアアース権益を確保するなど一定程度はできている。条件は厳しいが今後も可能性がないことはない。そのために日本政府はJOGMECなどを通じて出資や融資により権益確保を後押ししている」
――権益確保に向けた課題は多い。
「リスクの大きさはすでに説明したが、それ以外にも規制や法制の運用が不透明でプロジェクトの許認可に時間がかかるといった課題がある。中国や欧米などとの競争が激しく日本企業は入札や交渉に遅れを取る懸念もある。中国特有の中国企業丸抱えも日本の参入余地を小さくしている。アフリカでの資源開発については現地コミュニティや企業との長期的な信頼関係の構築が欠かせない。言語と対人関係に一般的に慣れていない日本人にとっては不得手な分野であるため、国際的に通用する日本人若手の育成が必要だ。現地での環境・社会的配慮と地域開発への貢献も必要になる。これらについてはJICAの資源の絆の卒業生が協力してくれるだろう」(増田 正則)

外務大臣表彰で当時の林外務大臣と記念撮影(細井氏提供)
細井義孝(ほそい・よしたか)氏
1948年9月30日生まれ、広島県出身
74年秋田大学鉱山学部卒、76年東京大学大学院資源開発工学研究生修了、09年クイーンズランド大学大学院経済学博士課程修了。秋田大学時代には2年間休学してザイール(現コンゴ民主共和国)の銅鉱山会社SODIMIZA社で探査技師として働く。
76年金属鉱業事業団(現エネルギー・金属鉱物資源機構、JOGMEC)入団、マニラ事務所長や小坂金属研究所副所長などを歴任。菱刈鉱山発見・中国安慶鉱山開発などに寄与。陸上だけでなく、宇宙RS(リモートセンシング)、空中電磁法、深海底鉱物資源調査など幅広く活動。南太平洋応用地球科学技術委員会(SOPAC)に3年間、旧JMEC(国際鉱物資源開発協力協会)に2年間出向。11年国際協力機構(JICA)国際協力専門員・資源開発アドバイザーに就任し「資源の絆」プロジェクトを創設した。現在はJICA鉱業分野アドバイザーを務めながら、秋田大学栄誉客員教授および北海道大学と九州大学で非常勤講師としても活躍する。2023年度外務大臣表彰を受賞。





















